岡本呻也著 文藝春秋刊 

解題 『ネット起業!』 田中裕士vs.岡本呻也5

インタビュアー 田中裕士
文藝春秋(取材スタート時の編集担当者)


  ●人は如何にして「社会性」を獲得するか

田中 ビジネスを続けていくうちに、有象無象のベンチャー企業の経営者たちにも、社会性を身につけていく瞬間があると書かれていますね。

岡本 そうそう、それはひとつ重要な話で、ベンチャー経営者たちは、最初は結構純粋な動機で、何か新しいことをやろうと考えて事業を興すわけです。ところが、ビジネスが大きくなってくると、社会の中における自分たちのビジネスの位置を意識した行動をしなければ、そこよりもさらに大きくなることはできないという壁に突き当たるんですよ。
 Qネットなんていうのはそういう意味では滅茶苦茶分厚い壁に突き当たって、そのためにだめになってしまったという珍しいケースだと思うんですけど、そうでなくても、どんな商品やサービスを提供するにしても、自分たちが利益を手にすることを第一に考えるのではなくて、「世の中の人たちに利便を提供する」という目的が第一でなければならない。
 だから反社会的なことをやってはならないし、 ひとつでも顧客に害を与えるものを提供してはならない、そこを意識しなければやっていけなくなる時期がくるんですよ、いつか。
 これってはっきり言って、そんなに偉そうに言うほどのことではなくて、当たり前のことですよね。ある人が自分の属するコミュニティで存在を認めてもらおうとすると、全く同じことがあるわけです。ある程度他人を気遣った役割を果たさないとだめなんです。

田中 3月に岡本さんが集中して取材してましたね。その中では、今言った認識を持っているベンチャー、持っていないベンチャー、いろんな段階のベンチャー企業がいたと思いますが。

岡本 そうですね、とにかく最初は何も考えずに話を聞きに行ってました。面白かったですよ。
 「こういう本にしよう」というふうに構想がはっきりしてきたのは、だいたい4月の初めごろのことでした。
 僕はそれまでかなりベンチャーの取材をやっていましたから、経営者の性格やその企業のビジネスモデルや、現状においてどのくらいのレベルにあるのかということはなんとなくわかるんですよ。
 で、ネットベンチャーについては2つのピークに年齢が分かれていて、ひとつが35歳を中心にする層、もうひとつは25歳を中心とした層ですね。実は、35歳ぐらいのネットベンチャーの人たちいうのは、ある程度素性がわかっている人たちにしか取材をしてないわけです。
 25歳の人たちというのは、なかなかまだ社会性の獲得のレベルまでには至っていないですよ。ただ、ひたすら仕事の面白さを追究している。それはそれでいいんです。その中でいろいろ勉強していくという過程です。その中で、彼らがどのようなものの見方をしているかとか、彼らのビジネスのスタイルや特色は何かということを、ざっくばらんに聞いて行って、ネットベンチャーの持つ特徴は何かということを浮き彫りにしていこうというのが当初の構想だったわけです。

 で、相対的にその中で思うことは……、みんなかなりしっかりしてますよ。

 これはね、やっぱりサラリーマンの20代の奴とは違うということです。それは言えると思うんだよな。だって、自分は一国一城の主で、責任があるんですから。サラリーマンだと部長だか課長だか、責任者とか監督権者という上司がいるわけじゃないですか。じゃ監督権限者が責任をとるのかといったらとらないわけですよ。部下は敏感にその事実を感じているわけです。そうすると組織においては責任はどこにもないわけ。その時点で、考え方とか価値観がものすごく甘くなってしまう。
 サラリーマンには、聞いていて、こちらが恥ずかしくなるような社会認識とか、自分の仕事に対する認識しか持っていない奴が多いですよ。かなり学歴が高くて、ちゃんと外国にも1年ぐらい行っていたりして、社会的には結構うらやましがられるような仕事をしている人間でも、「こんな甘い社会認識でこの先もやっていけると思ってるのかお前」というレベルの人が、大企業にもいたりするわけですよ。
 それに比べると、ネットベンチャーの20代の人間は、たとえ学歴がなかろうが、海外経験がなかろうが、絶対優れていますよ。二本足ですっくと立って歩いている。立派なもんですよ。「好感が持てる」というと取材対象に対して価値観が入ってしまいますが、実際のところそう思いましたよね。

田中 一緒に取材に行ったベンチャー経営者の若者で、重厚長大産業に就職した友達に電話をして、「インターネット時代が来たんだ、おまえそんな鉄鋼会社なんかに勤めている場合じゃないぞ」と言った人がいましたけど、あれはおもしろかったなぁ。

岡本 うん、でも僕はあの気持ちよくわかるな。だって、そうじゃなかったら、こんなお節介な本なんか書いてませんよ。
 「自分はこうだと思うんだけれど」と人に対して発信する気持ちがあるかどうか。そこのところで足踏みしている人が結構多いわけです。それは「一国平和主義」でね。自分がどんなに賢くたって、自分が持っている知識やノウハウを人に伝えなければ何の意味もないでしょう。日本の優秀な人の中には、スタンド・アローンな人が多いですね。それは、ネットワーク対応ができていないことです。これから生き残ろうと思ったら、ネットワーク対応ができていなければ絶対にダメです。

田中 メディアという仕事として情報を発信する業種にいても、自分の情報を発信したがらない人って結構いるんですよね。

岡本 まあ仕事に自信がないとか、ちゃんと勉強していない自分にコンプレックスを持っているとか、そういう人は委縮してしまうでしょう。
 滅茶苦茶バリバリ仕事ができて、情報も持っているんだけれど、それを発信しようとしない人というのは、これはもう「悪」です。そういう人が多い会社は、総合力を発揮できないでしょう。情報は共有しないと。

田中 でもだいたい、日本の会社ってそうでしょう。
 岡本さんには気の毒だけど、人材的な潜在能力は、ベンチャーより従来の企業のほうが圧倒的に高いです。

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