岡本呻也著 文藝春秋刊 

解題 『ネット起業!』 田中裕士vs.岡本呻也3


インタビュアー 田中裕士
文藝春秋(取材スタート時の編集担当者)



  ●人々の意識変化を先取りしたネットベンチャー

田中 没落を目前にした日本をIT化の波が襲ったことは、天佑にも似た幸運だったわけですね。

岡本 そうですよ。 われわれにとってあまりにもラッキーなことだと思います。
この本に登場しているのは、その新しい日本人の生き方を先取りしているネットベンチャーの経営者たちなのです。

 彼らが持っている特色は2つあると思います。
ひとつは「ビジネスセンス」があるということ。もうひとつは「ネットワーク対応能力」があるということです。
 「ビジネスセンス」というのは、しっかりしたビジネスモデルを組み立てることができるとか、コスト意識を持つとか、完結したビジネスをきちんと組み立てる発想力運営力のことです。ネットワーク対応力というのは、自分に欠けているもの(能力や資源)を如何にして外から補うかという発送や手法、あるいは他者との関係をうまく構築して、自分ひとりの力を何倍にも重複させるというテクニックのことです。
 この2つの能力は、今までの日本人には著しく欠けていたと思います。この本の中に出てくる主人公たちは最初は勝負に負けるのですが、その失敗から多くを学び、かなり高度なテクニックと、ぎりぎりの綱渡りをして、最後には勝った成功者たちなのです。
 おそらく、彼らの発想は今のわれわれには見事なものに見えますが、10年後の人たちは、この本の主人公のような考え方を身につけて、さらに高度なことに挑戦しようとしているでしょうね。そうなっていれば日本は、アメリカやアジアのハイテク企業とも互角に渡り合えるような、世界と勝負ができる産業を持つ国になっているはずです。

田中 岡本さんの指摘する危機感はよくわかりますよ。これまでの日本では仕事というのは自分が作るのではなくて、いつの間にか与えられるものでした。会社の規模や仕事の規模は先祖伝来の田んぼと同じですよね。4町歩あるか1反しかないかで、名主か小作かが決まっていた。
 それが現代では、田んぼどころか、明日にはなくなってしまうかもしれない、いかにも苛烈な資本主義社会になってきたわけですから。
 そこで確認しておきたいのは、ITによる変革は日本独特のものなのか、という点です。ITの技術的な革新はアメリカからきたわけですが、今岡本さんが言ったマインドの変革は、アメリカでもインターネットが普及する過程で起こったことなのでしょうか。それとも、アメリカではごく自然なことであって、それがITに伴って日本に来ることで、日本が戦後ずっと培ってきていた文化に衝撃を与えることになったのでしょうか。

岡本 おそらく、アメリカには最初からオープンで、闊達にパートナーシップを組むことができる仕組みが存在しているんだと思いますよ。フロンティア精神があって、そこで助け合わないと生きていくことができないというところからスタートした国なわけですから。

田中 なるほど、私自身、岡本さんの言う感覚と同じようなことを、インターネットでメールをやり始めたときに感じることができました。
たとえば、岡本さんがまだNIFTYを使っていた頃に、自分が日ごろ感じたことをC.C.でガンガン送りつけてきましたよね。その時「へえ、こんなことができるんだ」と驚いた。自分が考えたことを効率的に人に伝えてやりとりをすることができる、その中では「だれが偉い」ということはなく、メーリングリストではみんなが情報を共有し合える、だれかがそこで突出して支配的なことしようとすると、そのコミュニティが崩れるということを非常に敏感に学習することができるモデルだったですよね。そこで「ああ、こういうことなのか」と勉強することができた。

岡本 そういう文化は、NIFTY以前は日本にはなかったんですよ。日本人は相手との関係を作るときに支配=従属関係に必ずしなければだめなんです。そこんところが幼稚でね。そうしないと安心できない。それはアジアン・バリューでね。支配=従属関係を組み合わせて社会システムを作るわけです。それは静的で自律的に変化することができない構造なんです。新しいものも作るときにはすべてを崩すしかない。ミツバチの巣の崩壊みたいなものですよ。非常に柔軟性を欠いていて変化しにくい、ダイナミズムを内包しない仕組みなんです。

 一方、ITというのは結局その特性として、個人個人が情報を発信し、個人個人がそれを受け取って判断しなければならないですから、自分がシビアに価値を判断していくということが求められる、同じことを繰り返していくことによって、また回転速度を上げていくことによって、ネットワークを広げていく、自分が主体的にネットワークに参加しなければまた得られるものも少ないわけです。

田中 メーリングリストでも、自分が発言しなければ、それはただ受け手であるだけで面白くないですよね。

岡本 そこがフラットな関係性であって、支配=従属関係と違うところなんです。

田中 NIFTY以来、パソコン通信が普及しましたが、それが一般的になったのはウィンドウズ95が発売された95,6年以降ということで、そのころからそうしたフラットなコミュニティのあり方がみんなに認識されてきたわけです。ところが当時の日本にあっていち早く新しい構造に気がついた人たちが、この本の登場人物たちで、新しいことを手掛けて成功するわけですよね。

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