岡本呻也著 文藝春秋刊 

アイデアの生まれる瞬間.2

 何度が同じところを思考が行きつ戻りつして、最後にガチャっと音がして鍵穴に鍵が入った瞬間に、頭の中がぐるっと大きく回って、小澤はそれまで見えなかったものをはっきりと掴んだ。
「わかった。個人個人が゛自分はこれが欲しい゛とネット上で宣言するということは素晴らしいことなんだっ」と思わず口をついて言葉が出た後に、それに付随する新しいサービスのアイデアが、彼の脳みその中からボロボロッとこぼれ出してきた。小澤は慌てて、それらを拾い集めて書き留めた。

 買い手自身が「コレが欲しい」と表明して、売り手が条件を提示(見積もりを出す)して、折り合ったところで取引すればいい。これは今まで企業間取引(BtoB)に限られてきたが、企業と個人との商品売買(BtoC)分野についてもインターネットを利用すればシステム構築が可能なはずである。
 商取引の中には、実はもっと安い値段で売っているのに、顧客がそれを知らないばかりにバカ高い値段で買わされているというケースが非常に多い。情報の非対称性の上にあぐらをかいて暴利を得ている企業があまりにも多いのだ。もし個人入札ができるようになれば、そうした不当な儲けは減少しているはずだ。
「ぼくはこれを思いついたときは、刺されても構わないと思いましたよ。これは情報格差を利用して儲けている企業を潰すことができるビジネスなんです。ぼくら2、3人の個人がそんな大きな影響を持つかもしれないシステムを提供できるというのは、こんな愉快なことはない。ぼくは絶対に、ネットを使えば根本的にパラダイムを変えたビジネスをやることができると思います」

 後述するが、ネットベンチャーの株には「バブル」と表現されるほどの高値がついている。その源泉は突き詰めると、この情報の非対象性を是正し、消費者に消費の主権がわたることによって生み出される(大企業からもぎとられる)価値を、将来ネットベンチャーが手にするだろうと市場が好感していることにあると思う。この過剰利得はネット利用により確実に是正されるはずだ。「ひょっとして大企業側が仕事のやり方を変えて、そうした過剰利得を還元することで生き残りをはかるかもしれない」とみんなが考えるような動きが出れば、ネット株はさらに値を下げるだろうが。
 ネットベンチャーの経営者は、全員が全員、インターネットが社会を大きく変える力を持っていることを確信している。そして自分がその役目を果たすべきだという使命感に燃えて、成功を疑わず突っ走っている。彼らは後ろを振り返らない。「行くところまで行こう」と腹を決めている。しかし最初から大きな商売をする元手を持っているわけではないし、商売のこともよくわからないので、まず小当たりに当たって、失敗を積み重ねることになる。何でも、初めからうまくいくなんてことはあり得ない。

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