岡本呻也著 文藝春秋刊 

ボツ原稿 ネットベンチャーに聞く「ネットビジネスの本質」

世の中を変えていく種類の起業のことをネットベンチャーと呼ぶ


 以上のベンチャー起業家の資質に加えて、ネットベンチャーは独自の特徴を備えていると思う。ひとつは、ネットが世界を変えてしまうことを確信していること。
 この認識は2000年の正月を挟んで多くのビジネスマンが共有した。94年のインターネット商用開放からの6年の間に数億の人間がネットに触れた。そしていずれかの時点でネットの可能性に気づき、その可能性に自分の全てを儲けようと思った人間がネットベンチャーとしての一歩を踏み出した。とはいえ単純なネット礼讃者でも話にならない。あくまでネットをツールとして活用した時に、大きな価値を生むという認識がなければならないのだ。
 もうひとつネットベンチャーに不可欠な条件は、人と人を繋ぐ才能を持っていることだと思う。ネットは無機的な存在だが、繋いでいるのは生身の人間だ。どのような繋ぎ方をすれば価値を生み出すことができるかは、実はコミュニケーションについての豊かな経験と洞察がなければわからない。パソコンおたくにできる技ではありえないのだ。実際にパソコンに触れたことのない人に限って、この点についてひどく誤解しているのは悩ましいことである。
 それと、ネットベンチャーがスピード経営を実践するためにはアライアンスは不可欠だ。自社に最適の提携相手を求めるためには、自前のネットワークを持っていなければまず難しい。支援者のネットワークや公開情報に頼るようでは結果は知れている。なぜならそれらは共有されているからだ。ベンチャーに許された資源は限られているので、自前の資源を最大限活用して勝ちを呼び込むしかない。だから起業家の「ネットワーク力」は初対面の人に自分の考えを印象づける説得力よりも重要な資質なのだ。身近な人の紹介であることは、説得の効果を倍増する。
 人と知り合いコミュニティをつくった場合、その「場」をコントロールして、同じ目的意識を持ち、その付き合いの中から何かビジネスに有益なものを掴もうとする向上意欲の高い人の集まりに育てていくことができるような人脈づくりの巧みさがあれば申し分ない。まちがっても独立独歩型の性格ではネットベンチャーの経営は難しいだろう。
 ベンチャーの成功要因に「人との出会い」を挙げる企業家は多い。確かにキーパーソンとの邂逅ともいえる出遭いがビジネスの成否を左右することはあるだろう。しかしその人物との出会いは偶然でもなんでもなく、自分が求めたものであることが多い。経営者にとって、幸運はあくまで自ら呼び込むものなのである。

 以上述べたような資質を備えた経営者がネットベンチャーを起業した場合、成功を納めて株式公開し、ベンチャーから中堅企業へという次のステップに進める場合もある。しかし大きな成功を掴むことなく、小企業の立場に止まる確率の方がはるかに高い。
 ここ数年、ベンチャー成功の確率は以前より随分高まってきたような気がする。あるいは筆者の周囲に優秀な起業家がたまさか多いだけなのかもしれないが。環境が好転しつつあることは事実だろう。しかし不幸にして起業はしたものの倒産廃業という結果を迎えることもある。そうした苦杯を嘗めたとしても、チャンスは一度しか許されないわけでは決してない。自分の事業モデルへの確信と、不撓不屈の精神力があれば、必ず再起して成功への段階をゼロから一歩一歩登り始めることができるだろう。私はできれば、この逆境をもはね返す精神力をネットベンチャー経営者に必要な最後の資質のひとつとして付け加えたい。

 ここから先に描くのは、そうした優れた資質に備え、果敢に起業にチャレンジした若き経営者たちの軌跡である。ある者は成功を掴み、ある者は刀折れ矢尽きて途絶し、ある者はまたそこから蘇った。日本ネットベンチャーの精神史を10年前に遡及して見てみることとしょう。
 起業、それはまだ誰も見ぬ新しいものを生み出すこと。そしてそれらを繋ぐことによっても、また価値が創出される。わたしには、ばらばらに存立する価値をネットワークして、世の中を変えていく種類の起業のことをネットベンチャーと呼ぶのではないかという気がしてならない。


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