岡本呻也著 文藝春秋刊 

ボツ原稿 ネットベンチャーに聞く「ネットビジネスの本質」

○市民・消費者へのパワーシフト

 つまり、ネットの世界ではユーザーは王様である。ビズシークのビジネスモデルのように消費者がモノの値段を決めたり、ガーラを通してユーザーの声が商品開発に反映されることが当たり前になるだろう。
 住友銀行支店長という、一時は床の間を背にして座っていた立場から、ネットベンチャーの経営者に転出したDLJディレクトSGF証券(外国資本と住友の合併会社)の國重惇史は、あまり違和感なくその仕事をこなしているように見受けられるが、それは彼がネット界では企業から市民、消費者へのパワーシフトが起きていることをよく理解し、対応しようとしているからのように見受けられる。
 オンライン証券では50社がひしめき合い、これまでは各社が特長を競っていた。松井証券は、信用取引で独走した。Eトレードはソフトバンクの子会社らしく新規公開株の引受けに強い。欧米の株の扱いに乗り出した会社もある。各社こぞってiモードやザウルスなどの新メディアでのネット取引にも手を伸ばした。しかし、一社がやれば他社も必ずやる。時間が経つにつれて差別化は難しくなってきた。
 「差別化ファクターは一定期間以上持ちません。常に次を考えないと。でもね、この競争は望ましい競争だと思います。いつまでも"このサービスはうちしかやってませんから"というのがあると、サービスのクオリティーが落ちてしまいますよ。多くの企業が切磋琢磨して全体にサービスの質が向上すれば、お客さんがどんどん入ってくることになるでしょう。お互いが"どうビジネスを差別化するか考えて競争することは、マーケットの拡大に繋がるはずですから」
 ここには規制の影がない。客が必要とするものが何か見つけて、徹底的に追求する姿勢だけがある。同社のサイトでは日経新聞のデータベースや時事通信、株式新聞のニュースも提供されており、口座を開いた顧客は無料で利用することができる。さらに2000年5月から提供を開始した「マーケットスピード」は仰天もののサービスだ。このソフトをインストールして接続すると、パソコンの画面の下部に2段の情報欄が流れる。1段はロイターから来るリアルタイムのニュース(分野は企業、金利、外為などの選択ができる)。もう1段は、自分で選択した30銘柄の株価をリアルタイムで表示する。株価をクリックすると、画面上部に情報枠が出て、過去の値動きなど四季報に載っているような情報はすべて検索できる。株価チャートには、自分で自由にケイ線を引くことができる。画面表示の方法は自由自在だ。ロイターが法人契約10万円で売っているサービスを、当面は無料で、その後はせいぜい1000円で提供しようというものである。
「百人投資家がいたら百通りのやり方があると思います。だから百通り並べてお客さんに好きなものを選んでいただこうというのがわれわれの考え方です。ネットは顧客に近いだけにまだまだやらなきゃいけないことが多くて、優先順位をつけるのがたいへんですよ」
 とエリート銀行員はにっこり笑ってみせた。ここには厖大な資本が投下されているはずだ。

○ポータル化

 しかし将来、顧客が直接、証券取引所にパソコンを繋いで取引する日が来たらどうなるのだろうか。それはかなり先の話だとは思うのだが。國重は「オンライン証券はポータル化するだろう」と言う。
 「株価というのはキラーコンテンツ(強烈な競争力を持つ情報)なんです。たとえばネットによる銀行取引の場合、入金や振込といった用事のある時しかユーザーはアクセスしません。ところが株ですと、1日10回も見に来られるお客さんも少なくない。そこで売買もしていただける。そしてさらにその先の行動に発展していく可能性もあるでしょう。
 中高年の方は若い人と違ってネットサーフィン(サイトをリンクを伝わって飛び歩くこと)をするのは面倒だと思っていらっしゃるので、最初に当社のサイトにいらっしゃったら、そこから皆さんが必要とされるサービスに行けるルートをつくればいいと考えています。
 そう、これがネットとして最もネットらしい特質、ポータル(玄関口)の機能である。世の中にはごまんとインターネットのホームページがある。それをどのように繋ぐかがポータルをつくる側の戦略である。ウェブとは蜘蛛の巣を意味するが、ポータルとはサイト間の結節点であり、うまくサイトを繋ぐことによって新たな、そしてうまくすると大きな利益機会を現出する。そこで自社のサイトを、そこを訪れる人たちにとって魅力的なポータルとするため、企業間の合従連衡が行われるというわけだ。あたかもネットベンチャーが自社に欠けた部分を埋めるために提携する様を想起させるが、ポータルの構築もおそらくそうした戦略的提携とほぼ同じ意味を持つのだろう。
 DLJディレクトSFG証券はオンライン証券に関心を寄せていた住友銀行が日本進出を狙っていたDLJディレクト証券のノウハウを頼んで合併した会社だが、技術部分は日本初の商用プロバイダーであるIIJに依存している。なぜならIIJがピンチに陥ったときに数億円の無担保融資を行ってこれを救ったのは住友銀行であったからだ。そこで同社は竹橋のIIJのビルの8階に入居している。このビルの2階にはマネックス証券の松本大がいて、しょっちゅう國重と連絡を取り合っている仲である。彼もやはり自社サイトのポータル化に意欲を見せている。
「カネというのは物と交換して初めて価値が出るものであって、金融ビジネスは交換する前までのお膳立てをするものです。マネックスのサイトを物販やeコマースをやる"経済生活ポータル"にできればよいと思うんですけどね。
 イメージとしては、会社から帰ってパソコン立ち上げてうちのサイトに来ていただくと、その日の経済の重要な動きが分って、投資に関するリスク情報や運用についてのアドバイスが得られて、それに基づいて取引して入金ができる。一方、家具やベッドシーツ、机とか本、ワイン、文房具といったものはカタログ販売で十分だと思います。そういうものを買って決済ができて家計管理もできる。誰かにプレゼントをあげなきゃいけないとなると、それも選ぶことができて、それらのすべての操作を30分程度で終らせることができる。うちを使えば時間の節約になって、その時間を他のもっと生産的な時間にあてることができますよというサイトをつくるようにしたいですね」
 ポータルはネットだからこそできるものだが、アメリカでは既に総合ポータルは商売にはならなくなっているそうだ。ヤフーは広告料でしか稼げないので限界がある。むしろリクナビを擁するリクルートのサイトのように、ひとつでも圧倒的に強い部分を持つ領域特化ポータルに価値が出てくるという。それを「エッジ(角、縁)の立つサイト」と表現することもある。よりポータルとして強いのは、個人個人のあらゆるニーズを把握して、生活状況にぴったり合ったサービスを継続的に提供するサイトである。領域特化ポータルは「この方向に進化して、個人の強力な情報源としての地位確立を狙っているだろう。

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