岡本呻也著 文藝春秋刊 

ビル・ゲイツの敗北宣言

 ドコモには月に数千件というコンテンツ企画の持ち込みがある。最終的には月1回のコンテンツ評議会で採用するか否かを決めるのであるが、ここを通るのは金融機関などの取引系を除くと月に10件あるかどうかという激戦だ。
 しかしここを通り抜けなければドコモに収金代行してもらうことができないのである。コンテンツ・プロバイダーは、企画を持ってドコモに殺到するが、コンテンツ開拓担当部長の夏野の前に涙を飲む者が大多数である。
 「iモード成功の要因はね、複雑系の"ポジティブ・フィードバック"です。つまりiモードの参加者は各々自分の役割を認識して自分のためにだけやっているわけ。
 われわれドコモはiモードというプラットフォームの運営者ですから、最初にきちんとしたコンテンツ・プロバイダーを集めましたし、自分自身でなるべくコンテンツを持ったり、データを再配信したりしない。そこさえしっかりしていれば、コンテンツの数も増えるし、ユーザー数も増える。
 そうするとメニューリストに載っていない一般サイトも増える。ユーザーが増えれば社内で連絡用に使う法人も増える。そして当然ユーザーが増えれば端末メーカーも頑張って良い端末をつくりますよね。端末の進歩はわれわれも驚くほど早い。各々のプレーヤーが自分の役割を適切に把握し、仕事に徹すれば、どんどん良い循環に入っていくはずなんです。
 われわれとの提携を望むコンテンツ・プロバイダーには、4つのキーワードを満たしていただきたい。
 まず常に新鮮な情報であること。1カ月に1度しか情報を更新しないなんてとんでもない。
 深さがあること。ある程度中身に深さがないとユーザーは満足しません。
 継続性があること。ゲームであればユーザーが"毎日やらずにはおられない"と思うようでなければなりません。
 利得が明白であること。アクセスしてみて、役に立った。便利だった、楽しかったとユーザーが理解できること。
 これを自社のコンテンツに反映していただきたいんです。クリアすればいいという基準ではありません。ユーザーの求めるレベルが上がるから、クオリティーのスタンダードは上がっていくんです。特にゲーム系のレベルは考えられないほど上がっています。
 でも、これこそわれわれが最初に目指したことなんです。最初はカラオケしか思いつかなかった分野がこれだけレベルの高いものになったんですから。
 コンテンツを持ってこられても、われわれが自信が持てるものでないとリンクは張れません。だからといってお断わりするということはなくて、"このコンテンツであればこのくらいの品目を揃えないだめですね"とか、"ここまでのデータベースは必要ですよね。でないとあなたの娘さんは使わないでしょう。だからここまでぜひ頑張ってくださいね"とアドバイス申し上げるのですが、"わかりました"とおっしゃってそのまま2度と来られない方も少なくないですね。
 ユーザー数は毎日気にしてますよ。だって私はパートナーであるコンテンツ・プロバイダーにコミットしているわけですから」
 夏野もまた金船に変わった泥船を守り育てるために闘い続けているのである。
 夏野はビル・ゲイツの著書の中でパソコンが小さくなって手の平サイズの中に入り、その中に財布から電話から辞書や時計が入ると書いているのを読んで、「それは正しい。しかしパソコンが小さくなるのでなく、携帯電話が機能を増してそうなるはずだ」と思った。そしてそのビル・ゲイツは99年10月、ジュネーヴで開催されたテレコム99見本市で「携帯電話によるネット接続がいつでもどこでも情報にアクセスできる環境をつくった」と講演したと伝えられる。パソコンの敗北を宣言したのである。ハイパーネット時代に板倉と共にビル・ゲイツに会った夏野は、あの「冷たい目」のビルに勝ったのかもしれない。


次世代携帯電話の規格と覇権をめぐって

 ドコモは定款にネットを利用した音楽・情報配信サービス、金融業、広告代理店業などを追加した。
 今後、携帯電話にはさらにいろいろな機能が取り込まれ、出かける時にはそれだけ持てばいいというものになるはずだ。
 eキャッシュの機能がついて、財布になるし、カネが足りなければ友人の携帯につないで通信(ブルートゥース)でカネの貸し借りができるようになる。キャッシングもできる。それからスケジューラーにもなるが、これはPIM(パーソナル・インフォメーション・マネジメント)といって、職場などのグループでスケジュールやビジネスの情報(たとえば見積金額など営業上の情報)を共有できるようになるだろう。
 ウォークマンのように音楽も聴けるし、録音もできる。テレビもカメラもつく。家のビデオや風呂の湯を外出先からコントロールするリモコンになる。そして保険証やあらゆるものの鍵の機能も持つ。
 落としても指紋認証機能がついているので他人が使うことはできない。あるいはキャリアに連絡して機能を止めればよい。入力はすべて音声認識で面倒がない。こうした機能がついた携帯電話を各人が持つという日が、すぐそこに迫っているのである。

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