岡本呻也著 文藝春秋刊 

まだ層が薄い起業家

 起業にはリスクが付き物であることは当然だ。ベンチャーの世界に飛び込むものはそれを承知で自分の可能性に賭ける。そして自分の能力と時間を全てつぎ込んで商売を立ち上げようと奮闘するが、成功することのほうが実際は少ないのである。現に利益を出せるところまでいっているネットベンチャーはまだまだごく一部である。
 どんなにうまく行っていても、途中で何が起こるかわからないのがビジネスだ。Qネットの真田の場合は商売が乗っかっているインフラ上で規制がかけられた。ハイパーネットの板倉は銀行融資が突如引き上げられた。ネットでも特許侵害で訴えられるかもしれない。新技術の登場や新サービスが客を根こそぎ奪うかもしれない。地震でサーバーが壊れて全てのデーターが失われるかもしれない。そうしたリスクを取る勇気をもったベンチャー起業家たちを、私は冷笑的に眺める気にはどうしてもなれない。たとえ大きな失敗をしたとしても、彼らは新たな価値をつくることに挑戦したのである。利便を受益するのは消費者である。ならばそうした人間や新ビジネスへのトライの回数を増やすことは社会の前進にとってプラスなのではないだろうか。
 しかし日本では、一度起業に失敗した人間は社会的落伍者として否定される。板倉のように失敗体験自体がビジネスとして認知されている存在は八起会などごく少数である。
 ビットバレーはネットベンチャーの存在と、それが誰にとっても可能な選択肢であることを世に知らしめた。だがそもそもは緩い結合があったところに、強力な求心力で全員を集めてしまったために、ネットベンチャー経営者はほぼ全員が知り合いということになってしまった。これに対して「シリコンバレーには複数のコミュニティが存在し、ベンチャー経営者の人数も多く、その層も格段に厚い。その中でビジネスモデルや技術レベルを磨き合っているから発想か豊かだしスピードが早い」という指摘がある。
 アマゾン・ドットコムの西野はこう答える。
 「確かにビットバレーの層が薄いのは事実です。人数が少なければしかたがない。でも人数が増えればコミュニティも複雑になるはずです。95年のベンチャーブームの時は株による直接投資がなかったから、銀行がよく考えずにベンチャーに投資して崩壊してしまった(ハイパーネットの他にシナジー幾何学、ドームといったマルチメディア関連のベンチャーが倒産した)。
 でも今は、人もカネも入って来るようになった。ベンチャーを取り巻く環境は根本的に変わったんです。だから人やカネを何回転もさせて、この新しい構造を強固なものにしていくことが重要だと思うんです。シリコンバレーではね、たとえ一度会社を潰しても、経営ができる人材はなかなかいないから、また雇われるんですよ。日本のネットベンチャーでも必ず失敗する人が出てくるでしょう。だけどその人は失敗の経験を積んでるんだから、もう一度チャンスが与えられるようになるといいと思うんです。再挑戦は、"渋谷インターネット株式会社"の中の部署の異動にすぎないという形が望ましいのではないでしょうか」

 人が「そんなことは無理だ、できっこない」と思うようなことに食らいついて挑戦するベンチャーの気概こそ、かけがえのないものなのだ。挑戦する意志を持つ限り、チャンスを与えることは出資者にとっての利得の可能性があるだけでなく、社会的にも意義のあることなのではないだろうか。平たく言うと「あのバカにやらせてみよう」ということだ。ある意味バカでなければベンチャーなんかできないんだから。
 そしてここに一人、3度叩きのめされながら不屈の意志を持って、なお立ち上がろうとする男がいた。Qネットの真田哲弥である。

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