岡本呻也著 文藝春秋刊 

大企業で働くリスク

 大企業の社員では、まず派遣留学や駐在でアメリカに行き、現地のビジネス文化に触れた人に、ネットベンチャーへの転職の流れができたようだ。「生態系」概念をビットバレーに導入したアマゾン・ドットコム国際担当取締役の西野はその一人である。
 「日本の大企業の中で自分がやりたい仕事にありつけるラッキーな人はごく一部です。20代半ばの社員だと、何かをやりたい気持ちだけはあるんだけど、何をやったらいいのかわからないという人がほとんどでしょう。
 でもね、本当は一番リスクがあるのは大企業にいることですよ。それを振り切って会社の外に出るべきなんです。幸いビットスタイルが注目されて、人の移動が徐々に始まったのはいいことだと思いますね」
 アメリカでは金融機関からネットベンチャーに転進するケースは決して珍しくないが、日本では稀である。そんな中、一橋大学-興銀-ハーバードMBAという人もうらやむエリートコースを捨てて97年にベンチャー界に飛び込んだ三木谷の楽天が4月19日、ネット株総崩れの環境下で店頭公開し、初値こそ公募価格を下回ったものの、その後も株価は順調に推移している。
 それまで公開に漕ぎ付けたベンチャーのオーナーの中には、エスタブリッシュメントの大企業から転出したというケースはなかった。その意味では彼の成功はこれまでのベンチャーのゴールとは全く違う意味合いがある。大企業で抑圧されていた人材も、三木谷が数百億円の資産家になったのを見れば、そこに留まることのバカバカしさに気がつくだろう。彼の古巣の興銀は三木谷が辞した当時は戦後の産業復興をリードした誇り高き銀行の中の銀行であったのだが、現在では合併集約されてみずほ銀行として存在を失う方向にある。合併効果を上げるため合併行では当然リストラが行われる。西野の「大企業にいることが一番リスクがある」という言葉は誇張でも何でもない。
 「これは構造改変革です。大企業の殻を打ち破って人材が流動するエネルギーは、ずっと貯まりつつあった。それが99年の春に一定の閾値を超えて、人材がドッと外に溢れ出した。このムーブメントは定着するし、ベスト・アンド・ブライテスト(最も優秀な人材)は大企業に残らないでしょう」
 住友商事を抜け出て起業したグロービスの堀は断言する。
 ビジネススクールであるグロービスでは、99年後半に「インターネット・ビジネス・マネジメント講座」という講座を設けた。
 このコースは、ネットベンチャーにきちんとした経営陣を育てて送り込むことを目的としている。そのため同社では初めて選抜試験を行い、企業派遣は認めない。受講生は大企業のサラリーマンで、MBA取得者も含まれる。そして第1期の受講者50人のうち18人がネットベンチャーに転進を決めたという。グロービス・マネジメント・バンクが人材を企業に紹介する業務を行っている。グロービスは、大企業という人材ダムに深く穿たれた楔である。ダムの決壊は現実化しつつある。しかし堀は条件をつける。
 「確かに大企業から外に出ても平気な状況になりつつあります。それで"べらぼうに走っていけばいいんだろう"と思っている人が少なくない。でもそうじゃないんです。
 賢くて、ちゃんと物事や世の中の動きがわかっていて、経営のセンスがあってビジネスのフレームワークがあって、一緒に働いてみたいと思わせる人間的魅力のある人しか生き残ることができないということは覚悟しておいてもらわないと」

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