岡本呻也著 文藝春秋刊 



 ヤンエグ世代の陰影

 バブル崩壊以後の大学生というのは、学生運動の失敗を見た後の連中がシラケ世代になったように、ヤンエグ世代の行動を見て物質的繁栄に対する単純な信仰を捨ててしまった。彼らは生まれた時からカラーテレビを見ている恵まれた人種である。ひもじい思いなどしたことはない。食欲のような原始的な欲求は、精神形成に甚大な影響与えるので、「儲け」を追求して会社を起こす人たちの強烈な動機となっているケースが多いのだが(戦後の焼け跡世代で起業してバブル前に株式公開した人はたいていそうだった)、バブル崩壊前に大学に入った世代は、それ以前の人たちには信じられないほど金銭に対する執着がない。
 グロービスの堀義人などまさに「ヤングエグゼクティブ」世代。ニューヨークの金融街を肩で風切って歩いていたヤッピーの日本版である。この世代の学生時代は、マーケティングの才能を発揮して広告代理店を入り口に大人たちと組み、上手に遊んでいた。
 ところがそのヤンエグ世代を中高生として見ていた彼らは、「いい学校からいい会社へ入るのが、果たして正しい生き方なのだろうか」と冷静に考えていたわけである。人に迷惑をかけたり,環境を破壊してまで儲けたくはないという自分の問題意識を反映させ、かつ既存の企業が手を染めていない部分を模索するという形で、ポストバブル世代の学生たちはリサイクルショップや有機野菜販売といったビジネスをスタートさせていった。また、学生として後進の指導にあたるという意味での家庭教師派遣も健在で、松山大河もこれを手掛けていたらしい。

起業は学校で教えくれない


 こうした志にあふれた学生ベンチャー企業を支援し、また起業家を増やそうとするお節介な組織がETICなのである。設立に携わり現在も代表取締役を務める宮城治男は、この組織の設立経緯をこう語る。

「大学時代は自分の好きなことをやっていたのに、就職活動ではやっぱり偏差値的に就職が難しい会社を上から順に受けて、合格して喜んでいる先輩の姿を見て違和感を覚えたのがきっかけなんですよ。"それで本当にいいのか。お前がやりたかったことは一体なんなんだ"と思いましたよね。
 早稲田の学生は、"せっかくここまで勉強してワセダに入ったんだから、学生時代に横道にそれてもちゃんと足を洗って一流企業に就職しなきゃ"という自分で敷いたレールの上を走っているんです。
 でもある先輩が起業家支援組織で働いていて、そこでは事業計画に1000万円まで融資するという話を聞いたんです。
"そうか、会社って自分でつくることができるものなんだ"。
 これは気づきでしたね。人はまず会社の枠の中に自分を嵌め込まずに、人生をもっと自由に考えて、生き甲斐のある仕事をやるべきなのに、"起業"などということは学校の先生も教えてくれない。だけど、起業家になるということは全ての選択肢を手に入れることなんです。"起業"という言葉には、"自分の人生の中で本当にやりたいことは一体なんなのか"ということを考えさせてくれるパワーがあります。
 僕は、周りにいる学生たちの就職一辺倒の意識を開放させたかったんです」
 "自分は何でもできるんだ。何にだってなれるんだ。世界は自分のものだ"という青年の気概がなければ、新しいものは生み出されてくるはずもない。ところが戦後の財閥再結成を経て出来上がってしまった5大企業グループを中心とする大企業では、そうした横紙破りな気質など学生に望んではいない。それは現在でも変わらない。就職の募集要項には"独創性のある人材求む"と書いてあっても、面接で本当に"独創性"を発揮しようものなら決して採用されることはない。爪を隠して入社したとしても、長年かけて持ち前の才能を磨滅させ、同期管理の中で精神的に去勢してしまうのが大企業の文化なのである。

 93年、宮城治男は、早稲田大学で企業に関心のある先輩とアントレプレナー研究会を立ち上げた。94年にはこれが関東10大学の同士と結んだ学生アントレプレナー連絡会議(ETIC)に発展。さらに関西、名古屋とネットワークを拡げ、NPO(非営利民間組織)としての体裁を整えていった。
 ETICは大学を舞台に年間50回を越える講演会を行い、起業に対する啓蒙活動をした。それまで大学のサークルが講演に招くのは文化人か政治家、芸能人と相場が決まっていたので、成功したベンチャー経営者の講演を学生に聞かせるというのは新しい試みであったろう。運営は全てボランティアの働きである。「起業家の学生を学生に聞かせたい。世の中を生き抜いてきた人たちの声を聞くチャンスを学生に与えたい」というのが宮城の狙いだ。講演料無料で駆けつけてくれた経営者は多数にのぼるが、ソフトバンクの孫正義、旭ソーラーの林武志、プラザクリエイトの大島康弘など、山あり谷ありの事業人生の本物の迫力に、参加者はショックすら覚えたという。グロービスの堀義人も北海道、京都、九州と遠方まで足を運んで講演した。ネットエイジの西川も何度か講演している。こうして経営者と学生たちのつながりができてきた。
 ETICのもう一つの主要な活動に、アットレプレナー・インターンシッププログラムがある。インターンとは、体験実習のこと。ベンチャー志望者や、マネジメントに興味を持つ学生をベンチャー企業に送り込んで、ビジネスの実際を体験させようというプログラムである。ETICでは現在年間で100社、人数にして400名もの学生を企業に送り込んでいる。ネットエイジの営業で大活躍した女子学生も、ここから派遣されたわけだ。こうしてETICは、ベンチャー企業と大学をつなぐ太いパイプになっていった。

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