岡本呻也著 文藝春秋刊 

社長失格

 板倉の書いた『社長失格』はヒットし、10万部近く売れた。1000通もの読者からの葉書が板倉の手元に届いた。彼は「葉書が自分を一番成長させてくれた」と自覚している。
 98年1月に板倉は会社借り入れの個人保証分26億円の破産宣告を受け。人生にリセットスタートをかけた。99年の1年間で60回の講演をこなす。その間に本物のベンチャーブームがやってきて、ネットベンチャーは銀行借り入れに頼らなくても起業できるようになった。板倉は現在インターキューをはじめ10社程度の会社の顧問になっている。
 「ですからね、あんまり力を入れずにね、淡々と、ニュートラルにやっていればいいとわかったんですよ。それでお呼びかかったら"あいよっ"と出ていってやればいいという感じです」
 という板倉だが、その起業意欲に衰えはない。2000年2月に、ベンチャーマトリックスという会社を設立し、CEO(社長)に納まった。インキュベーターなのだそうだが、会計士や弁護士、エンジニアのネットワークをつくり、ビジネスプランを実現していくことを目指しているそうだ。彼の企業能力を惜しむ人は少なくない。ベンチャーができる人材は圧倒的に足りないのだ。
 「常に創業が楽しいんですよ。事業のスタートアップに比べると社長業はつまらないルーチンワークだし、僕は不得意だな。日本の社長は発案、人事、プレゼン、財務、営業などが全部わからないといけないと思われている。平均点が取れる人のほうが偉くて、創業が楽しいという人は生き残れないんです。
 いくら創造的な社長でも、長くやっているうちにいつの間にか元々のビジョンが見えなくなってしまう。でも、日本でも井深-盛田とか本田-藤沢という2人3脚があった。アメリカではスペシャリストの集団がもっと分業して経営しているし、人材の流動性もある。要は"人"がどれだけ活躍できるかが問題です。
 とにかくハイパーネットでは忙しくて社員と話す時間もなかった。あれから2年間考える時間をもらって、自分の才能の長短がわかりました。そのなかのよい部分を生かしていけたらなあと思うんです。
 ベンチャー成功の鍵は、経営リソースと経営スタイルが一致しているかどうかですよ。ベンチャーの経営スタイルは、ハイリスク、ハイリターンで市場シェアを取るというものですから、それに見合ったものにベクトルを一致させるべきだった。ところがぼくはそうしなかったんですね。リソースというのは、まず金ですがベンチャーならリスクマネー(株・債券)を使うべきなのに僕は銀行融資に頼ってしまった。人材は、MBAや会計士の資格を持った高給取りを集めてしまった。モノはタンデムに頼んだけど、実はパソコンサーバーでよかったんです」
 板倉の饒舌は止まらない。
 「またベンチャーブームが来ましたよね。僕はハイパーの時代はITに賭けてました。でも、今ITをやるのは当たり前すぎると思う。もし僕が今からやるのなら、全然違うことをやると思います。
 それでネットバブルと言われてて、必ず失敗する会社が出てくると思う。投資する側は一社一社ちゃんと見て投資すればいいんです。アメリカが凄いのは、失敗したベンチャー経営者のリサイクルの場を20年かけてつくっていること。『シリコンバレー・アドベンチャー』の著者カプランだって、オンセール(パソコン関連機器のオークション会社)で復活してネット長者になった。日本でも失敗する起業家を受け止める場をどうつくるかが問題だと思います」
 これは、本音だと思う。今では「起業=ネット」と思い込んでいる人も少なくないが、この世代以前の起業家たちはネットなしでも会社を興した。それだけのアイデアとネットワーク力を持っていたわけだ。だから、ネットの特性に過度に頼る経営者には、ある部分、経営力としての脆弱性を感じずにはいられない。あくまで起業家としての資質を備えつつ、ネットの特性をその中で活かすという意識でなければ、本当の成功企業にはなれないだろう。
 「偉そうに言ってますけどね、僕は大学出てないしMBAも持ってない。ビジネスの仕方や物の本質、人生のことは全部、車から勉強したんです。自動車は20世紀の産業の縮図なんですよ。マーケティングも技術開発も、経営も、自動車理論も、レースも、全てそこにある。
 今ですか、今はボルボ850に乗ってますよ」
 彼がベンチャー経営者として再び栄光の座を取り戻す日が来るのだろうか。彼は日本車に乗っていた経験がない。私は思わずこう訊かずにはいられなかった。
 「もし板倉さんがフェラーリじゃなくて、トヨタ車に乗っていたら、日本の大企業の行動様式がよく理解できたはずだから、銀行借り入れ依存を避けていたかもしれませんね」
 しかし、日本車型経営がベンチャーに相応しいとも、到底思えないのだが。

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