岡本呻也著 文藝春秋刊 

再建計画

 真田は、廃人のようになって椅子に座っていた。もう彼は主役ではなくなっていたのだ。
 西山以下の役員たちが冷静に再建策を練り上げ、金策、増資、株式譲渡に応じてくれる企業を探し回った。ニューメディア界に轟いたQネットの社名に魅かれて興味を示す会社は少なくなかったが、Qネットの実態を知ると手の平を返すように引き上げていった。
 その中で何社か引き受けを申し出てくれる会社もあり、役員は交渉にあたった。その一社が徳間書店である。社長の徳間康快はニューメディアに興味を持ち、Qネットにも出資を希望して、情報提供元として取引していた子会社の大映を通して出資を申し入れてきたことがあった。大映担当者だった杉山は「もう一度お願いできませんか」と頭を下げた。「そちらから一度蹴った話を蒸し返すわけか」と不快感を示されたが「そこをなんとか」と頼み込んで交渉のテーブルにのせることに成功した。
 チャンスである。役員たちは膨大なファイルをつくって再建計画を練りに練った。社員50人を退社させ、残った10人と会社自体を引き受けてもらうというものである。
 「あの会社はオーナー企業だから、まず徳間さんに会って、話を通そう」
 西山と杉山は眦を決して、6月初旬のある日、新橋の貸しビルにあった徳間書店社長室を訪ねた。大人物の徳間康快は、新入社員のように初々しい若者たちがつぶれかけの会社の再建計画を携えて来たのを意外に思ったのか、「話は聞いてるよ。君たちがやるのか。じゃあやろう」と力強く約束してくれた。一瞬かいま見た希望の光に2人の頬が緩んだ。だが交渉が事務レベルに落ち込んだ時点ではっきりと「Qネットの会社自体は買わない。現経営陣は引き取らない。債権については面倒をみるが、金の先物取引で開けた穴については真田が勝手にやったことなのだから責任は真田に取らせろ」と申し渡された。
 Qネットは家賃の安い千代田区岩本町のビルに引っ越していた。5億円の債務を肩代わりした徳間インテリジェンスネットワークが、QネットのスペースでQネットのサーバーや器材を使って営業を始めたのは91年6月のこと。西山、杉山、加藤以下11人がQネットから移籍。玉置も最後に「私には経営者としての責任があります。徳間さんには会社を引き受けていただいた。私も一兵卒として参加したいと思います。ヒラとして採用してください」と入社した。
 Qネットは営業譲渡して、休眠法人になったのである。

 真田はその階下で、一番最初につくった4500万円のサーバーを使い、月々100万円近いこのリース料を払い続けるために2ショットのQ2サービス会社をやりつつ債務処理に追われていた。
 「とにかく金を稼がないと」
 汚れ仕事をやってでも金を払い続けなければ実家が抵当に入っているので取り上げられてしまう。もはや夢も希望も、支えてくれる友もいなかった。あるのは大借金。日本リースに個人保証しているリース債務が4億円ほどあった。玉置を連帯保証人にしていなかったのがせめてもの救いだ。親も保証人にしていなかった。日本リースは督促にやってくるが、真田は開き直った。
 「ほら、だって見ればわかるでしょう。もう会社の実態はないんですよ。保証人は僕しかいないし、債務免除してくんないんなら、自己破産しちゃうよ」
 自己破産という言葉を出した途端に担当者の態度は「まあまあ、そう言わずに」と丸くなる。「そうか、切り札はこれなんだ」と悟った真田は自己破産をちらつかせては言を左右にして支払いを渋った。最終的に日本リースはこの債権を放棄し、損金処理することになる。その日本リース自体も98年に潰れてしまった。
 インフォコネクション向けのライセンス料は踏み倒した。その他にも細々とした借金があり、玉置が支払ったものもある。

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