岡本呻也著 文藝春秋刊 

メディアの寵児

 マスコミは大喜びで玉置真理を取り上げた。
 「新ベンチャー会社の女社長は彩色兼備の現役東大生」(FLАSH)
 「年商14億円めざすニュービジネス社長は現役東大生の才媛ギャル」(週刊読売)
 「ダイヤルQ2業界最大手経営者は21歳の東大ギャル」(アサヒ芸能)
 200以上のメディアがQネットと玉置を掲載した。売り上げは毎月倍々ゲームで伸びていく。

 東京円卓クラブのメンバーであった三和銀行の高山は、三田支店の貸出課に真田が座っているのに目を止めた。
 「お前何やってるんだよ」
 「あれっ、いやあ今度Qネットっていう会社やってるんだけどね、アメリカ企業と提携したんでこれは成功まちがいないよ。それで取り引きさせてもらおうかと思って」
 「そういうことは俺に言えよ、銀行員なんだから。でもなんでウチに来たの」
 「ここが三田倶楽部から一番近い銀行なんや」
 90年春、高山は支店長と一緒に本店の審査担当役員を訪ねた。Qネットに対する1億円の融資稟議を通すためである。無担保でこれだけの金額を創業間もないベンチャーに都銀が融資するのはかなり異例なことだった。Qネットはその頃、2カ月のサイトでNTTから1億円近い情報料の入金があったので、これを事実上の担保として押さえるということで、無事にQネットへの1億円の貸し出しは裁可された。その晩、高山と真田は祝杯を挙げた。
 リースの保証人も必要だ。東京円卓クラブ代表の伊藤が、原宿にあるアパレルメーカーの社長を紹介してくれた。真田が伊藤に連れられて本社に行ってみると、豪華な内装の部屋の中にルノワールやシャガールなどの印象派の巨匠の絵画がこれ見よがしに飾ってある。「この人は本物の金持ちなんだ」と唸らせられた。
 社長は真田からQネットの話を聞いてリース契約の保証人になることを快諾してくれた上に、「資金繰りに困ったらいつでも言っておいで」と泣ける言葉をかけてくれた。リース会社は「保証人の他にも、代表取締役全員の個人保証をいただきたいのですが」と言ってきたが、真田は突っぱねて玉置の保証は入れさせなかった。
 こうして大阪と名古屋のQネットセンターの設備はすべてリースでまかなうことができた。
「どれだけ借金を背負っても、全国にセンターを完成させ、あらゆるコンテンツがわが社に集中する日が来ればいくらでも日銭が入ってくるんや。現に毎日、情報料収入は増えとる。設備投資するっちゅうことは、その分伸びるいうことや。他社がやる前に先行してセンターを完成させるんやあ」
 真田は獅子吼した。
 最高月商は1億3000万円を記録したが、その頃にはもうQネットセンターの売上比率が50パーセントまで上がってきていたのである。
 天馬空を征くが如し。真田は最高に充実した気分を味わっていた。どこの集まりに出掛けていっても、「真田さん、ご挨拶させてください」「真田さん、名刺ください」「今度食事でも」と下にも置かれぬ応対である。これほど気持ちのいいことはない。
 「やはり俺は正しかったんや。俺はこの国に第3のメディアを創り出した。そして26歳にして会社を店頭市場に公開し、一流企業の経営者という名誉を手に入れる。俺は天才だ……」

b.pnga.png

サイト運営者は桜内ふみき氏をサポートしていますサイト運営者は桜内ふみき氏をサポートしています




人間力★ラボ
人間力★ラボ




人間力営業
人間力営業



「人間力」101本