岡本呻也著 文藝春秋刊 

回線確保の大作戦

 揺るがぬ自信を取り戻した真田は一気に突っ走り始めた。彼の辞書に不可能の文字はなかった。12月のサービス開始までにやるべきことは山ほどあったが、障害や不運は若さの前に姿をくらませた。

 まずダイヤルQ2のサービス用の電話回線を押さえなければならない。第1回の回線開放は麹町電話局のたった180回線のみ。申し込みは郵便で1社2枚まで。当らなければQ2ビジネスに参入することはできない。真田はしれっとしてNTTに電話した。
 「あのう、Q2回線の申し込みなんですけど、まだ会社つくってないんですが、個人でも申し込めるんでしょうか」
 「ええ、結構ですよ」
 真田はセンカ・ヤング・ネットワークの学生200人から名義を借りて申し込ませた。抽選結果を開けてみると、真田が開放回線の大半を独占することになった。真田は飛び上がって喜んだ。当然ながら、この抽選方式は次回からは採用されなかった。
 Q2サービスの導入を先導した伊藤忠商事の100%子会社であるボイスメールは、抽選に外れて参入できずに困っていた。そこで真田は、
 「どうでしょうねえ。御社とインフォコネクション社との提携交渉権を譲っていただければ、数十回線差し上げてもよろしいですよ」
 と持ちかける。
 インフォコネクションはアメリカの900番サービスで、数人の人間が同時に会話できるパーティーラインというシステムを85年に開発し、大成功していた。アメリカではやるのなら日本でもウケるに違いない。真田は彼らの交渉が契約寸前になっていることを知っていた。参入機会を失いかけていたボイスメールは、背に腹は変えられず交渉権を真田に譲渡する。
 インフォコネクション社長のジム・ガトリブは早稲田大学に留学していたこともある技術オタクで、真田と同年輩だ。真田はすっかり仲良くなり、「ソーゴーショーシャは抜け目がないから組んだらやられるぞ。それより俺たちで組もうぜ」と提携話をまとめてしまう。ジムとの交渉には主に玉置があたった。8人程度の人間が一度に会話を交わすことができるパーティーラインは、その後、Q2の最大の人気番組になった。
 こうして、パーティーラインの叩き出す日銭をどんどん全国のQネットセンターの設備投資に注ぎ込んで、全ダイヤルQ2サービスの中での優越的地位の確立を目指すという構図が出来上がった。しかもQネットセンターを置く、落成したばかりの超高層ビル、紀尾井町ビルの敷金はジムが出してくれるという話である。うまく行くときは何でもうまく行く。

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