岡本呻也著 文藝春秋刊 

失った栄光を取り戻すために

 上京して1年、こうした人脈を広げつつ、ダイヤルQ2サービスを利用した最初の本格的ネットワークビジネスを考案し、事業計画に落とし込んだ真田は、拳を握り締めて大阪行きの新幹線の車中に座っていた。
 「俺の手からこぼれ落ちていったリョーマを取り戻すんや。この事業計画なら、みんなリョーマより儲かりそうやと思うやろう。もしみんなが身銭を切ってQネットに出資してくれたら、俺を再び認めたっちゅうこっちゃ」
 人手が必要だった。安心して仕事を任せれらるのは、やはりリョーマの面々である。このプレゼンに失敗するわけにはいかなかった。
 新大阪駅に到着した新幹線の降車口から真田は勢いよく飛び出した。ここからは勢いで勝負だ。
 リョーマは真田がいなくなった1年で売り上げを倍増させ、年商5億円の立派な中堅企業になっていた。真田から呼び出しをうけた西山以下の十数人の幹部たちは「なんか真田さんから、たいそうな発表があるらしいよ」との呼び出しを受けて、新大阪駅前のビジネスホテルの会議室で主役の到着を待った。部屋に入ってきた真田は、1年前に東京に流れていった時とは見違えて、身体に精気と自信を漲らせ、小柄な体躯が大きく見えた。
 彼は、ガラガラ声を張り上げて計画の説明に入った。設立趣意の発表は事業の第一歩であり、起業家の真価の発揮どころである。情熱的、かつ自信満々の態度で話を進める。
 「われわれはラジオ、テレビに続く第3のメディアをつくります。私のアイデアにはそれだけの可能性があるのです」
 真田はまず大きく出て、全員のど肝を抜き、事業の細目を説明していった。
 「なお、代表取締役社長には、東京大学法学部1年生玉置真理を据え、私は代表取締役専務となります。美人東大生が社長を務めるということは、当社の存在をマスコミを通して告知するのに大変好都合であります。マスメディアに積極的に取り上げてもらうつもりです」
 真田の脳裏を「私を利用するために近づいたのか」という玉置の猜疑の表情がかすめた。そんなつもりではない。彼女の才能は認めているのだが。
 「……ということで、以上の初期投資を実行すれば、その後は黙っていてもQネットセンターに番組とアクセスが集中し、限りない収益がもたらされるはずです。どうかリョーマのみんなにも、出資等のご協力を仰ぎたいとおもいます」
 「おお、真田が東京に行ってやっぱり大きくなって帰ってきよったで」
 と各人は目配せした。
 「これはいけるかもしれんね」と西山や加藤に言われて真田は満足げにうなずいた。
 「やっと俺にとってのゼロ地点まで戻ってきた。この先は前進あるのみ。もっと凄いことを起してみせるぞ」

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