3月26日 ウイーン



 今回は大きな見本市があるらしく、いつも泊まっているホテルが満室だった。それどころか、大抵のホテルは満室で、西駅の近くのホテルを探すとJTBの関西の支社が押さえていたので、その最後の1部屋を日本でもぎ取るようにして、やっとの思いで予約したのだった。チェックインしたあと、明日のウィーン・フィルのチケットがまだ届いていないので、エージェンシーに確認の電話をして(日本語が通じるのでうれしい)、着替えてネクタイを締めて、地下鉄に乗ってシュテファン・プラーツへ向かう。そこからケルントナー通りを歩いて国立歌劇場へ。

 ネットで予約したチケットを受け取って、さっと席に座る。最前列やや右側の席である。このオペラ座はおなじみだが、やはりこれまでの旅の印象の中でいうと格段に大きい。
 今日の演目は「ばらの騎士」。今回の旅のハイライトである。1994年の来日公演で聞いた「ばらの騎士」をもう1度聞きたいという願いがかなう瞬間である。
 聞いてみると、今日の演奏は、指揮者のペーター・シュナイダーが国立歌劇場の名誉メンバーだかなんだかになるとかいう記念の演奏会で、特別編成なのだそうだ。そうプログラムにも書いてある。バイオリンのソロを弾いているライナー・キュッヘルのハゲ頭が揺れているのが目の前に見える。ウィーン・フィルの大編成は素晴らしいアンサンブルで、ややこしいオーケストレーションをそつなくこなしていく。管楽器の真ん前なので、このオペラで管楽器がどのように効果的に使われているのかよくわかった。まったく感激である。
 今回の舞台の演出は、もちろんオットー・シェンクのものだが、ちょこちょこと変えてある。例えばオクタヴィアン伯爵とオックス男爵が剣を交えるシーンでは、オックスが自分からオクタヴィアンの持つ剣に触れてけがをする。オックスのワルツの前など録音では普通は省略されている部分もかなり復活してやっていた。歌はゾフィーが一番よい。伯爵夫人の威厳に満ちた姿もよい。
 このオペラの成功は、まずなんといっても設定と筋立ての面白さだろう。ホーフマンスタールは、人間が抱える悩みと悦楽と卑劣さと高貴さを台本の中にうまく折り込んでいる。その背景は爛熟した貴族文化と新興階級の台頭、これは「山猫」に通じるテーマではないだろうか。
 シュナイダーの演奏は、「よきに計らえ」という感じで、このオペラにぴったりだ。
 第二幕冒頭、こんな華々しいシーンがあるオペラが他にあるだろうか。最後の三重唱はオーケストラの演奏が大きすぎて、歌手の声をほとんどかき消されそうになっていた。大暴走だ。陶酔とはこういうことを言うのだろう。音が耳に残って離れない。拍手の後、オーケストラがハッピーバースデーを演奏して、ホーランダー支配人が出てきてペーター・シュナイダーについてのかなり長い口上を言う。何やら記念品を贈呈している。指輪らしい。
 11時、オペラ座を出て西駅に戻ってくる。食事をしたいのだが、もう既にどの店もしまっている。悲しい思いでホテルに帰る。

b.pnga.png

これはあくまでも個人的な備忘のための旅行記であり、ここに書かれている情報を利用したためにどのような不都合があったとしても、当方は一切関知しませんので悪しからず。