3月23日 ドレスデン2




 この町では、再建されたザクセン時代の建築よりも、空襲の爪跡の方が雄弁である。店に入ってビールを飲み、川縁のテラスを歩いて、トリムの乗り方を覚え、ホテルに帰ってくる。旧市街の周辺を走っているトリムが使いこなせれば、かなりこの町の観光は楽だ。

 19時15分、トリムで国立歌劇場に向かう。ここは天才建築家ゼンパーが設計したオペラハウスで、1841年円形のファサードが特徴的な美しい建物である。ワーグナーが「タンホイザー」や「さまよえるオランダ人」を自ら初演した劇場であり、また「ばらの騎士」が初演されたに劇場でもある。この時は、あまりの人気にパリからドレスデンまで専用列車が走ったそうだ。
 劇場の前にダフ屋が出ていた。「今日は満席か」と聞くと、「ボエームだからね」との返事。1.3ユーロでジャケットをローブに預ける。この歌劇場はきれいに再建されている。劇場の内装はロココ調で5階席まである。座席は最前列だ。天井が高いし舞台の間口もある。かなり大きな舞台である。天井にシャンデリア。仰々しく有名作曲家の顔を描いたセーフティカーテンが下りている。これが引き上げられると緋色の緞帳が姿をあらわす。

 今夜の演目はプッチーニの傑作「ラ・ボエーム」。舞台装置は、なんというかデザインがこの街の現代建築に似ていて、いまひとつである。演出はかなり小芝居をきかせている。ミミは黒人の恰幅のよい人で、第一幕で登場して階段を上がってきて気絶するというのはいかにも苦しい。そのミミの歌にはムラがありすぎていただけない。ロドルフォは健闘しているが声があまり出ていない。他の歌い手も可不足はないのだが普通という感じ。
 第二幕とはそれでなくても忙しい芝居であるが、まったく演出の冴えがない。衣装を含めて豪華なのは分かるが。ミミとムゼッタの2組のカップルが舞台正面に並んで歌うという何の工夫もない演出に辟易する。ムゼッタのワルツもそれなりの出来である。ムゼッタのパトロンのおやじが妙に背丈が高いのも変だ。このオヤジのところにロドルフォたちの勘定書きが来て、おやじが仰天するという幕切れのオチが、幕が下りるタイミングが早過ぎて見えないという落ち度もあった。
 そんなこんなに目をつぶれば、演奏はすばらしい。プッチーニのうっとりするようなメロディーを見事に聞かせてくれる。感激。今回は、主役をオーケストラだと割り切ってみればよい。演奏は緩急をつけて、歌わせるところは歌わせて聞かせてくれる。
 それにしても、どう見てもミミが死にそうにない体型なのでなかなか泣くに泣けない「ラ・ボエーム」だった。ちょっと他と違うのは、ミミがピアノにもたれかかって死ぬことだが、これとてたいしたことではない。すべて一流ではあるのだけれど、なんとなく不満を感じさせる舞台だ。しかし演奏はこの旅で聞いた中で群を抜いてよい。

カトリック旧宮廷教会(右)カトリック旧宮廷教会(右) フラウエン教会の近くまで戻ってきて、適当にレストランに入る。ビールとこの地方のビール職人風カツレツというのを頼む。このカツレツはフライパンに乗って出てくるのだが、火の通り具合がよくてとても柔らかく、なかなかうまい。揚げ物大好きの私にとっては、たまらない味である。ザクセン地方の白ワインも頼んでみる。これがまた揚げ物によく合う。これはなかなかいいわいと一人で悦に入る。
 店を出ると既にトリムが終わっているので、歩いて帰る。たいした距離ではない。12時ホテル着。

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これはあくまでも個人的な備忘のための旅行記であり、ここに書かれている情報を利用したためにどのような不都合があったとしても、当方は一切関知しませんので悪しからず。