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「慮る力」単行本 人間力とは慮る力

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高級ホテル
顧客満足を実現するための最高のビジネスモデル

ザ・リッツ・カールトン大阪


*文句を言われたら、そこから始める努力をする

 関西に来たのはこのホテルが初めてで、お客様の関西気質に驚くことも少なくありません。畏まってお礼をしているうちに、お客様はすたすた歩いて行かれたりします。値段についても、「高いなあ」と声に出しておっしゃる方もいらっしゃいます。
 面と向かって言われる言葉はストレートできついのですが、そのように文句を言われる方の方がもう一度お越しいただけます。もう二度と来ないと心に決めている人は黙って帰ってしまいます。言ってくれる人はまだ原因が分かるので楽なのです。文句を言われた時に逃がしてはいけません、そこから始める努力をします。
 料理の味が問題なのか、料理を出すタイミングが問題なのか、サービスが問題なのか、なんとかそこで次の機会を約束していただきます。そうすると、「次は安くしてくれるの?」などと言われますが、私は食べたり飲んだりする以外の、気分良く楽しくなっていただける部分が足りないのではないかと思っていますので、「次は料理やモノだけでなく、楽しい時間を過ごしていただけるように頑張ろう」と思います。
 そのお客様がもう一度こられたときは、「この前はどうも」と、「この人は料理の価値観がわかっている人なんだ」ときちんと認識していることを伝えてあげれば、お客様の心地よさが違ってくるはずだと思います。

 お客様は、食事をされているときでも、常にサインを送ってくれています。楽しくおいしく食べられているときは、やや前傾姿勢になっておられます。
 お腹がいっぱいになったときや、何かを私たちに注文したいときは、後ろに反っておられたり、腕を組んだり、あるいはカウンターに片ひじついておられるようなこともあります。
 明らかに口がへの字になっている場合は、「一体どうしたんだろう」と思います。そういう時は例えばワインを頼まれていて、フレンチ・レストランの方に取りに行っているのですがそれが遅くなって、料理とのタイミングが合わなくなってしまっていることなどが考えられます。
 インチャージをしているときは、店を一番見渡せるところに立っています。ここにいると、電話の音が聞こえるのでキャッシャーのフォローもできるし、個室の入り口も見えるし、庭を挟んだ向こう側のガラス越しに玄関を入ろうとされているお客様の姿が見えるし、カウンター以外の店内のほとんどを見渡すことができます。
 ぐるりと、店内を一周するにはだいたい二分かかると思います。一周して戻ってきた時に、さっきと同じテーブルの状態であるとすると、「ウエイトレスは何をやっているのかな」と考えます。グラスが空いたままであるとか、空いた皿が下がっていないとか、お客様が送っているサインに応えていないといったことです。
 そのような時に、お客様に「申し訳ありません。ただ今やっているのですけれど遅れています」とご説明するだけで、お客様のいらだちの度合いはかなり違うのです。そのフォローをいかに早くできるかが問題だと思います。
 そういう意味では、お客様から教わることは数多いです。年配の方が多いので、自分の子供を叱るように、お話の中で私自身の考えの偏りについてまで厳しくご指摘いただく場合すらあります。また接待の達人のような幹事の方を見るにつけ、「もっとあのような達人の域に近づきたいものだ。彼の技を盗みたいし、活かしたいな」と思っています。
 お客様に怒られながら、お客様が発しているサインがわかるようになりました。そういう意味で、やはり年をとるのは悪いことではないなとも思います。ここのお客様は非常に慣れていらっしゃる方が多くて、「いったい何年やってるんですか」と怒られることもしばしばです。
 ですから、お客様に何かを申し上げるのではなく、「こちらの方が教えていただきます」という気持ちでないとつとまりません。そのようなお客様が相手ですから、あいまいな受け答えはあってはならないことだと思っています。

 リファレンスカードには、そのお客様の好きなもの、嫌いなもの、料金傾向を含めたいつも選ばれるコースについて書き込んでいます。また、なんとかお客様の確認情報がいただきたいので、最後にアンケートをお渡ししたりして、名前と、同姓同名でも確認できるようにお電話番号をいただくよう心がけています。

*最高のシステムと組織風土、でも客の心を慮るのは従業員

 アメリカ企業の場合、自社の理念を徹底するため、目標の全員共有と反復的な実践に非常に力を入れています。
 またお客さんの満足度といった情緒的な事柄をデータに置き換えて把握する努力、そして自分たち自身では測りかねる部分については第三者の客観的な評価を得ようとする姿勢、従業員を採用するときにすでにサービスマインドの適性をテストで判断することなどが非常に特徴的です。
 しかし、「客の心を慮る方法」については、彼らが毎日徹底を図っている二〇のベーシックにはほとんど触れられていないことを発見しました。
 ここに書いてあることは、どちらかというとプロの心構えと、プロの仕事をするための具体的なテクニックについてであり、相手の心を知る方法については明記されていません。

 「クレド」には、「お客さまが言葉にされない願望やニーズをも先読みしてお応えする」という動機が与えられており、どうやらこれに基づいて各人が「お客さんが何を求めているのか」を見つけ出す努力をすることになっているようです。
 ベルパーソンのOさんも、ウエイトレスのCさんも、お客さんが発しているサインをしっかりと受け止めて、相手がホテルに来た目的を読み取り、お客さんのニーズを先読みして希望とサービスをピタッと合わせたり、お客さんの気分を良くして楽しませるという付帯的なサービスにうまくつなげています。この部分がなくて「ただ宿泊するだけ」、「食事をするだけ」であれば、実質本位の関西人のニーズを満たすホテルやレストランは他にいくらでもあるのですから。

 個人の好みに対応するパーソナル・サービスも顧客満足のために重要な要素です。リッツ・カールトンでは、これを追及するために個人個人の好みを細かく書いたデータベースの作成を行っています。こうした外資系列のホテルでは、宿泊履歴をかなり細かく取り全世界で共有しているので、このようなデータは蓄積されれば一つの経営資源になります。
 もうひとつ特徴的なことは、顧客を満足させるサービスを実現するためには、マニュアルも、自分の業務範囲も越えても構わないという権限委譲が行われており、かつ部署間を超えた協力が得られるような意識共有と、従業員同士がお互いを尊重し合う組織風土をうまくつくっていることです。
 ここには、三〇〇億円を投じた施設と、従業員が顧客の満足を実現するために一番働きやすいシステムと組織風土を整備して、非常に恵まれた環境の中で、顧客の心に響く最高度のサービスを追及するビジネスモデルがあるようです。


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『慮る力』 お断り この本の目的は、純粋に「ビジネスマンの意識」について論じたものであり、いかなる商品・サービスの購入、団体への加入をも推奨するものではありません。また本書は、あらゆる商品・サービスの宣伝、宗教・政治など諸団体の活動とはまったく無関係です。この本は2001年に取材したものであり、内容が古くなっている可能性があります。

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