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「慮る力」単行本 人間力とは慮る力

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葬儀社

自分の心を殺して遺族ために仕事をする
公益社 世田谷営業所
Aさん



 顧客のことを最大限慮らなければならない仕事の一つに葬儀社があります。
 遺族の悲しみの中で葬儀を取り仕切る葬儀社のスタッフはどのようなことを心掛けているのか、大手葬儀社の公益社世田谷営業所のAさんにお話を伺いいました。
 Aさんは昭和四五年和歌山県生まれ。九六年入社で入社六年目。同社の新卒採用二期目で、いかにも実直そうな長身の青年です。
 公益社は関西で昭和初期に創業した葬儀社で、現在東証二部上場。東京にも進出し、一〇〇円単位で葬儀費用を提示するという明朗会計で知られています。国際品質標準規格であるISO九〇〇一も取得しているほどで、非常に近代的な運営ノウハウを持って葬祭会館を関西圏と関東地方に展開しています。

*気が動転している遺族には細心の気遣いが必要

 私は中学生の時に母親が死去し、大学三年生の時に父親を喪いました。その時に喪主をやって葬式に対していろいろな思いを持ったことがきっかけでこの業界に興味を持ち、就職の時に調べて「ちゃんとした会社だな」と思い入社しました。
 大阪で半年間研修を受けた後はずっと世田谷営業所に配属されて営業をしています。

 会社に入る前には、自分が葬儀の現場で喪主の立場を経験して、「こうしてほしかった」「こうしてもらいたかった」と思っていた自分の希望を実現できるのではないかと思っていました。 親の葬式を出す立場になって思ったことは、まず金額が不明朗でわかりにくかったこと。それと葬儀社としては毎日葬儀をやっているので、業務がルーチン化しがちです。
 それもわかるのですが、遺族にとっては個人の一生の締めくくりであり、「気持ちよく送りだしてあげたい」という気持ちがあるものです。ご遺族の側と、葬儀社の側の気持ちにそのようなギャップがあるわけです。しかも、葬儀はすぐやらなければならないので、時間が制限されています。
 にもかかわらず葬儀に対する予備知識が少ないので、遺族は葬儀社の言いなりにならざるを得ない。料金の相場に関しても、当時私は大学三年生で、通夜と葬式を分けてやるということぐらいしか知識がなかったのです。ましてや料金体系など思いが及ぶはずがありません。

 もうひとつは、ご遺族は精神的に非常に不安定になっていることです。看病疲れをしている場合も少なくありません。どうしていいかわからない、泣きたいような気持ちなのです。
 私の親の葬式の場合、出棺の直前になって「何かしら故人と一緒に入れるものはないですか」と聞かれてうろたえた記憶があります。「そういうことはもっと事前に教えてほしい」と思いました。
 ご家族がうろたえているときには、親戚が主導権を握って葬儀を進行することも少なくありません。しかし、それが本当にご遺族の気持ちを反映しているかどうかにも問題があります。「本当は父親のお骨を母親の友隣に埋めてあげたい」と思っているのに、全然違うところに埋められる場合もあるわけです。

 私としては、そのような自分の体験が原点となって、「どうせ働くのならそれを生かしたい」「自分は頭がシャープに切れるわけでもないし、でもお客さん受けは悪くない」と思いましたのでこの仕事を選びました。

 今は基本的に個人葬を担当しています。仕事としてはまずご遺族から連絡を受け、病院かご自宅に伺ってご遺体を安置場所に移動します。ドライアイス処置をして、その後ご遺族の方と葬儀の日取りや内容、費用などを取り決める打ち合わせをします。
 葬儀では進行司会、誘導、お骨の安置まで行います。また葬儀の後も、アフターフォローとしてのお墓や、四十九日のお返し、法事についてなどを窓口となって対応します。

 入社してみて、「思っていた印象と違うな」と感じたことが幾つかありました。まず、体力がかなり必要なんです。
 いつご家族がなくなったという電話が入ってくるか分からないから月に四、五回は電話受け付けのために宿直をしなければなりません。祭壇の設営は思いのほか力仕事ですから運動能力も必要ですし、生活が不規則になるので体力が必要です。

 自分は、「社葬で総務の人を相手にして大きな葬儀を仕切るのは苦手かな」と思っています。社葬というのは情よりもイベントとしての側面が大きく、ご遺族の感情とは別に会社のお客さんに対してのセレモニーという意味合いが強いように思います。社葬は私としては苦手な部分です。

 個人葬のお客様のために考えるのは、第一にご遺族の満足です。
 人によって死生観や家族の状況は違うので難しいのですが、ちょっとした気遣いが大切なんです。例えば病院から式場に直行するような場合も、「ご自宅の前を通るルートで行きましょう」とご提案したり、そんなささいなことでもご遺族は喜ばれるのです。例えば「葬式の時天気がいい」とか、少しでもいいことがあればそれにあやかりたいというのがご遺族の心理なのです。
 逆に、われわれが致命的な失敗をしたら、それはご遺族の方の心の中に一生残ってしまいます。

 そこでご遺族の方には、葬儀はどういう進行になっていて、どのような費用がかかるかという基本的なことはしつこいくらい繰り返して説明し、ご理解いただくようにしています。当社は、システムとして明朗会計になっています。通夜と葬式では参加者の比率がほぼ倍違って通夜の方が多いなど、ご遺族の方がご存知ないことが多いのでコンサルタント的にすべての進行準備を含めてご説明申し上げます。
 家庭には各々の事情があります。打ち合わせの前に家庭状況を把握しておかなければなりません。その方の職業や役職で、参列者の人数や規模がだいたいわかります。これは式場をどこにするのか決めるために必要なことです。
 地位のある方ですと、ご家庭ではお父さんなのですが、お葬式は大規模にやらなければならないこともありますので、、会社の総務部門への連絡が必要です。

 親族の方、特にお亡くなりになった方のご兄弟が葬儀を仕切るというケースもあります。しかし私は、なるべくご家族の気持ちを大切にしたいと思っていますので、ご遺族の方の意見が通るようにしようと心掛けています。
 しかしご家族がお亡くなりになって気が動転されている方は、私たちの説明を聞いてうなずいてはいらっしゃるのですが、ほとんど理解されていないことも少なくありません。
 そこで、説明して了解していただいたことは手書きで文書化するようにしています。あまりにも突然に事故でお亡くなりになった場合で、ご家族が非常にとり乱しておられるようなときは、信頼できるご親戚の方とお話しして打ち合わせをするしかないようなケースもあります。


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『慮る力』 お断り この本の目的は、純粋に「ビジネスマンの意識」について論じたものであり、いかなる商品・サービスの購入、団体への加入をも推奨するものではありません。また本書は、あらゆる商品・サービスの宣伝、宗教・政治など諸団体の活動とはまったく無関係です。この本は2001年に取材したものであり、内容が古くなっている可能性があります。

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