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「慮る力」単行本 人間力とは慮る力

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スチュワーデス
乗客の心の安定を図るコミュニケーションの力

日本航空
客室本部 客室CS推進部 キャビンコーディネーター
Oさん

*元気なときしか笑うことはできないもの

 私自身は、子供から年寄りまでいる大家族の中で育ったので、人と触れ合うのが好きだし、深く考え込まずに感覚で対人関係をつくれると思います。
 老人はお茶を欲しいものであるとか、トイレが頻繁だと知っていますし、来客が多い家庭でしたから、出がらしの薄いお茶はだめだとか、男性の方にはお茶菓子はいらないといったことも自然にわかっています。「人と接して何かをしてあげたい」というのは自然にいつも思っていることです。
 しかしその一方で、経験を詰めば積むほど求められるレベルが上がってくるので、「性格的に強くなっていく自分」を感じてよくないなと思っています。
 また、この仕事はチームワークが大切なので、自分のことだけ考えていても済まされません。いつも仲間の状態に気配りすることが大切ですし、視野を広く持っておく必要もあります。

 限られた人数で、より多くのサービスを行うためには、体力がなければなりません。気力と体力が第一です。そして、元気なときしか笑うことはできないものです。
 笑顔を作るための表情筋を動かすためにも気力と体力は重要です。「自分が健康である」というイメージを頭に描くようにしています。そのために、夜更かしをしない、お酒を飲み過ぎない、ステイ先でも運動や散歩を心掛けます。睡眠と食事が大切です。よく食べよく眠るようにしています。

 仲間内のコミュニケーションは大変大切です。仲間の協力なくしては、いいサービスはできません。
 そのためには、「自分はこういう人間で、こういうサービスをしたい」と積極的に表現します。「エコノミークラスでは個人客が多いので、こういうところに気を配ってね」とか、「おとといのバンクーバー便でこういうことがあった」とか、ブリーフィングの前に早めに来て必要な情報をチェックし、自分が持ってきた情報に仲間を巻き込んでいくわけです。
 気持ちは女性ですけど、やっていることや体力、きびきびした態度、思考は男性並みのものが要求されます。そしてどういう職位であっても、「お客様の安全を守ること」が根底にあります。
 毎回お客様が違うし、フライト中はいつ何が起こるかわからないわけです。常に命がかかっています。だから「フライトの前は眠れないほど緊張する」という人もいるくらいです。しかし、「常に命がかかっていること」を意識の上で共有していれば、やるべきことは協力してできるのではないかと思います。

 以前は「お客様は神様」というイメージがお互いにあり、無理なアップグレードなども押しつけてくるお客様がいらっしゃいましたし、サービスも「何でもやります」という姿勢を見せていました。
 しかし現在では、お客様とわれわれとの関係がきちんと整理されているように思うのです。
 私たちは安全が第一であり「迷ったら安全を取れ」と教育されています。座席を戻していただけない方に対しても、ステータスにふさわしくないと感じさせないよう、お客様に恥をかかせない言い方で、「お席を戻しいただけませんか」と協力を依頼し、だめであればトーンを強めていくようにしています。まず安全があって、その上にカスタマーサティスファクションがあるのです。

*個々の乗客に「個人として尊重している」ことをアピール

 空を飛ぶ人々のニーズも、時代に合わせて変化していくようです。バブルのころは至れり尽くせりのサービスを期待していた乗客たちも、飛行機のキャビンが携帯電話から解放される唯一の空間となった今日では、キャビンアテンダントに期待しているサービスは
「自分のペースでゆっくり静かにくつろぎたい」

「わざわざ言わなくても気を利かせてほしい」
「気が向いたらアテンダントに話し相手をしてもらいたい」
「常に自分に注意していてほしい」(不安感のある人)

 といったことです。
 これに応えるために、彼女たちはまず挨拶を効果的に使って、乗客一人ひとりの心と自分の間に架け橋をつくっていきます。
 その心の架け橋は、食事や飲み物のサービスなど相手との接触のたびに強くしていくようです。それによって相手がリクエストしやすい雰囲気をつくるわけです。「自分の心と相手の心の距離が近い」と感じれば、人は相手に甘えられます。そうした関係を擬似的かつ一時的にうまくつくっているわけです。
 さらに彼女たちは、相手からのリクエストのサインを見逃さないために常に乗客を観察し、狭い椅子に縛りつけられて立つことすらままならない乗客からのリクエストを、タイミングよく聞くことができるように忙しい時にも忙しい感じを見せない振りをして応対しています。

 サービスについては、空の上を飛んでいるわけですから出せるものに限度があります。それよりも、乗客がわざわざリクエストしなくても望んでいるものをサービスするようにしたり、同僚との連絡を徹底してサービスを重複させないようにするなど、「いかに相手を個人として尊重しているか」をアピールするようにしているようです。
 子供が泣き止まないときは、お母さんの不安が子供に伝わっているので、お母さんを安心させるとその安心が子供に伝わって泣き止むなどとは、私は想像すらしたことがありませんでした。

 このように幅広い年代の乗客を十数時間にわたってケアし続けるキャビンアテンダントの仕事には、相手の心を知るためのコミュニケーション能力が凝縮されています。
 しかし、彼女たちが果たしている本来の仕事は、コミュニケーション自体ではなくて、満足感を得られる接客と、乗客の要望を彼女たちが受け止めて安心感を与えることによって、狭い機内に閉じ込められている乗客の心の安定を図ることなのでしょう。
 もし彼女たちがいなければ、海外への長時間のフライトは味気なく 不安感に満ちたものになり、それに耐えらる強い精神力を持つ人の数はあまり多くはないかもしれません。
 そう考えるとキャビンアテンダントというのは、地球を小さくするために、ずいぶん偉大な役割を果たしているんだなあと改めて考えずにはいられませんでした。


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