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「慮る力」単行本 人間力とは慮る力

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カーナビ商品開発者

潜在的ユーザーの「本質ニーズ」を掘り起こす法
パイオニア
モーバイルエンタテインメントカンパニー
事業企画部 ナビゲーショングループ
企画課
Tさん
Nさん


*「モヤモヤしていたもの」が形になる瞬間

 ユーザーの声や、調査で出てくる傾向値を漫然と見ていては、商品はできません。
「うちの子がバーミヤンに行きたいと言って困った」という具体的でリアルなヒントがあったときに、「他人の子がどうしようが知ったことではない」と突き放して考えるのでなく、「お父さんが運転しながらバーミヤンを捜しているというのはどういうシーンなんだろう」と想像すると、子供が後ろの席で騒いでいるんだけれど、不案内な土地で「いったいどこにファミレスがあるんだろう」と当惑しているお父さんの姿が浮かび上がってきます。そして「カーナビはこれを解決する手法なんだ」と開発者として思い至るはずです。
 それを「じゃあ、周辺検索の機能が必要だ」と、結びつけることができなければならないと思います。仮説を現実の商品にするために、「自分で使うときには、こうじゃないか」という方向でいつも考えますし、販売店の人や営業マンと話す時にも、そう考えるようにしています。そうすると、モヤモヤしていたものが、形になる瞬間があるんです。それは企画検討会の資料を書いているときとか、あるいはウトウトしてる時など、「あっ」と思って起きあがりますね。

 そういう時念頭にあるのは、「カーナビを多くの人に使ってほしい、カーナビはおもちゃじゃないんだ、もっと役に立つものなんだ」という考えです。
 ドライブするときにみんなが「必要だ」と思っていることは、尋ねてみるとみんな似たようなものです。つまり根源的な運転中の欲求というものがあるんだと思います。ターゲットとして想定した子供がいる家庭は、多かれ少なかれ同質なのです。私にも子供がいますので、そこで共感することができます。
 隠れているニーズを見つけるためには、「自分にとって何がうれしいか」「カーナビに求められているものは本当は何なのか」という本質から考えるべきでしょう。
 「音声入力で自宅へ帰るルートが引けるという機能が実際にできたらいいな」という思考方法です。

 またカーナビというのは、ハードウエアだけではなく、地図情報などのソフトまで含めて企画しなければなりません。
 ダイレクトボタンに集約されている楽ナビのユーザビリティは、運転者の直感性に対応するものです。運転者は道路の状況に応じて変化する運転に集中しています。ドライブの中で起こってくる突発時を処理しなければならないわけですが、それを助けるのがカーナビなのです。カッコイイだけではダメで、実用性とエンタテイメント性を兼ね備える必要があると思います。それを私たちは「実楽主義」呼んでいます。
 実現するのは簡単なことではありませんが、その答えはお客さんのことを考えながら、自分が運転して見て、体感して発見できるのではないかと思うんです。

 開発者は「自社の技術や面白さや美しさを追求して、完成度を高めよう」としがちです。
 そうやってカーナビはどんどん多機能になってきました。でも、そうやって完成度を高めれば高めるほど、ユーザーが欲しい情報は階層の深いところににどんどん入って行ってしまいます。完成度がもたらす効用は、実は使いにくさであることが多いのです。
 単純にスペックや高い機能を求めるのでなく、「混ぜご飯を作るときにこの具を入れるのでなく、除いた方がトータルではおいしいのではないか」という考え方ができる開発者は素晴らしいと思います。木を見て、森を見ずに陥らないよう、いつも全体のバランスを考えるべきだと思うんです。

 楽ナビはお客さんが買われるときに「自分でも使えるだろう」という安心感を与える工夫をしています。
 本体がオレンジ色という、従来のハイテクのイメージである青色やメタリックの感触と全く違う色も、温かさや親しみやすさ、安心感を前面に出すために今回初めて採用しました。こうした色使いや商品のコンセプトは、「新しいね、今までと比べてちょっと違うね」と、まず社内で、そして販売店やユーザーの方に評価が広がりました。ユーザーの方からのおハガキには、「妻がかわいいと言ったので買いました」とか、「七三歳ですが、私にも使えます」といった反響が来ています。

 販売店さんの方でも、パソコンをしっかり使っている人や、カーナビの買い換えユーザーにはサイバーナビを勧めていただき、まったくの初心者であるとか、パソコンを使ったことがないような方には楽ナビを勧めていただくように売り分けているようです。
 楽ナビは「機能はある程度同じで、初心者でも使えますよ」というアピールができる商品なわけですから、まだカーナビに触れたことがないユーザーを掘り起こすことができるはずなのです。これからもこの方針で、楽ナビの開発を続けていくつもりです。

*使う人の身になって考え、解決策を探る

 新しい消費者を獲得する製品を作り上げるためのNさんたちの方法論は明快でした。
「カーナビのハードユーザとは違うターゲット層は、それまでとは違うニーズを持っているのではないか」という発想から、その新しいニーズを発見しようとしたこと
「消費者はカーナビに何を本質的に求めているのか」をスタート地点において、従来の発想にとらわれない開発を行おうとしたこと
 消費者へのインタビューでは、カーナビについて質問するのではなく、ドライブに関して困ったことがないか質問し、そこから出てきたリアルなドライバーの喜怒哀楽を「カーナビで解決できないか」という発想に結び付けたこと
 その問題を解決するために、自分自身が運転しながら体感し発見したニーズで現実の商品を作っていったこと
 開発者がやりたい高機能を優先するのでなく、単純化ニーズにこたえるために製品全体のバランスを考えた足し算引き算を行い消費者のニーズと商品をうまく合致させたこと

 こうしたハイテク商品とユーザーのニーズを結びつけるために必要なのは、使う人の身になって考える共感性と、それをどうすれば実現できるかを柔軟に考える適応力でしょう。
 こう考えれば、もう既に機能を極めていて「これ以上進化のしようがない」とみんなが思い込んでいる商品でも、まだまだユーザーのニーズにより近づける進化の余地はあるでしょうし、また消費者自身の変化を考えれば改善の余地が極まることはないでしょう。
 したがって、消費者が何を求めているかをつかみとる力は、成熟商品の競争力を決定する要因になるかもしれません。


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『慮る力』 お断り この本の目的は、純粋に「ビジネスマンの意識」について論じたものであり、いかなる商品・サービスの購入、団体への加入をも推奨するものではありません。また本書は、あらゆる商品・サービスの宣伝、宗教・政治など諸団体の活動とはまったく無関係です。この本は2001年に取材したものであり、内容が古くなっている可能性があります。

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