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「慮る力」単行本 人間力とは慮る力

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再就職支援会社

相手の心の中にある「生きるための答え」を導き出す
R社
カウンセリング・教育部
チーフカウンセラー
Hさん


*「輝いていたころの昔の自分」に戻れば自信を取り戻せる

 さて、カウンセリングですが、その人の思いを自由に語ってもらうのが基本です。
 クライアントの簡単な履歴データを、登録シートとしてあらかじめ書いていただいていますので、それを手元に置き、それをとっかかりにして話を聞き出していきます。
 一回目のカウンセリングでは、「ともかくその人の生活感や考え方、今置かれている状況を観察しよう」という気持ちでお話を伺います。例えば、「ここにいらっしゃるのに何分かかりますか」と聞いて、「九〇分かかりました、私にとってはたいへんな時間です」という反応があったときに、「再就職をした時にこの人はまた毎日九〇分かけて通勤するのだろうか」と考えます。「再就職」を念頭に置いてどんなささいな言葉からも本人の気持ちを読み取っていきます。
 「一度にどこまで話を聞かなければならない」という目標は、私は決めてません。ただし、一回のカウンセリングを終わったときに、必ず次の課題を決めるように私は心掛けています。

 カウンセリングを始めてから一カ月の間にやらなければならないことは、再就職のための応募書類である履歴書と、「職務経歴書」を完成させることです。
 履歴書はある程度の形式があるので簡単ですが、三〇年間一つの会社に勤めた人が三〇冊の手帳を残している人はなかなかいません。そういう人は二〇年前に自分が何をしていたかと聞かれてもなかなか思い出すことはできないので職務経歴書の作成はたいへんなのです。
 そこで、ワークシートを準備していただき、自分の記憶のある職歴をあらかじめ書いて来ていただきます。
 書かれたものには、職歴が羅列してるだけで感動も悲哀も何もありません。カウンセラーは、「この職歴の中であなたが本当に楽しく仕事をしていたのはいつですか?」「腹を立てながら仕事をやっていたのはいつごろですか?」と、仕事の中身を細かく尋ねていきます。
 そうすると、クライアントの頭の中にだんだんと記憶がよみがえってきます。職歴や生活を振り返るので、当社ではこれを「振り返り」と呼んでいます。これが十分できれば「次の仕事に活かせるスキルがなんなのか」、また「本人はそれを活かしたいと思っているのか」が浮き彫りになっていきます。そして、活きた職務経歴書ができあがるわけです。

 転職先の会社は即戦力を求めています。しかし、「経理のスキルがある」という表現だけでは、一体何が得意なのかはっきりしません。
 カウンセラーと話しながら自分を振り返っていくことで、「これがあなたの本当のスキルじゃないですか、あなたこれが得意なんじゃないですか」という、本人が忘れていたことを再認識していただき、自信をつけていただくのです。
 人は一生懸命仕事をしてるときは、われを忘れてしまっています。順調な時はそうしてその経験を徐々に忘れていってしまうのです。カウンセリングの中でそういうところにさしかかったとき、「ここはもっと膨らませて価値づけをして書いた方がいいですよ」と申し上げます。
 対話をしていく中で、「そうだっ、おれはこういうことができたんだ」と本人は気がつくわけです。それこそがその人にとっての財産なんです。そしてそこに気がついてもらう手助けをするのが私たちの仕事なのです。
 その時に私は、「どこまでクライアント当人になり切ることができるか」「どうやれば彼と同じスタンスに立ってものを考えられるか」を追求しています。完全に本人になり切ることはできませんが、「どこまでなり切れるか」、それが私のプロ意識なんです。
 そうした昔の楽しかったときに気がついたとき、やはりクライアントはうれしそうな反応をします。「ああ、やっぱりあの頃は楽しかったなあ」、これが多ければ多いほど、そして多く気づけば気づくほど、自信の元になるわけです。

 本人の目標が定まった後は、当社のリクルーティング部隊の協力も得て、クライアントは就職活動に入ります。就職活動中のクライアントは、活動の報告をカウンセラーにしながら、「この仕事にはぜひ行きたい」、あるいは「迷っている」「報酬に問題がある」などとアドバイスを求めてきます。しかしこの時点では、本人の気づきがしっかりできているので、「果たして自分の選択が正しいかどうか」の確認や検証をカウンセラーに求めるだけで、カウンセラーに対して精神的な支えを求める人は少ないと思います。
 平均的にだいたい四カ月くらいで転職先を決める人が多いようです。そこで、二カ月目以降はほとんどが、自分が決めた目標に対するチャレンジ行動をやっているわけで、カウンセラーはそれをサポートする仕事を行います。例えばクライアントが「特殊な仕事を探してほしい」と思っている場合、それを求人部隊の方につなぐことは、しばしばです。

*少しでも私欲を見せると、信頼関係は崩壊する

 私は今五八歳で、アパレル会社に三〇年勤務し、営業を一五年、企画を一五年やってきました。この会社でカウンセラーを始めてから丸三年になります。
 私自身ここのクライアントであり、カウンセラー養成講座を受けて、失業中の身という心の底から笑えない自分に気がつき、また同じ境遇の人たちを見て「何か僕にできることがあれば」と思ってこの仕事を志しました。当時またタイミングよく、当社がカウンセラーの募集広告を出していたので、何の自信もなかったのですが「やってみようか」と思い応募して、採用されました。最初はカウンセラーの先輩が辞めた後、その人のクライアント二二人を引き受けてスタートしたのです。
 始めた時から比べると、現在では洞察力や直感力、論理ではなく、「ああ、やっぱりこうだったんだな」と後になって考えるような「感性」に磨きがかかっているようにも思えます。
 また、いろいろな業種の人とカウンセリングを通して触れ合ったので非常に視野が広がりました。

 この職業のために必要な能力は、まず人が好きであることでしょう。「クライアントの話を傾聴し、相手に共感し、信頼を築き、相手自身の気づきを引き出して能力を生かすことができ、目標をうまく設定して、その実現のためのアプローチ方法を示してあげて、一緒に歩む」という一連の流れを行うためには、人が好きな性格であることが一番重要だと思います。
 カウンセラーが相手に共感するから、相手も過去の自分の良かった部分や、自分の本当に得意なことに気づくわけです。また、「相手が共感してくれている」とわかるから何でもしゃべるし、「聴いてくれている」という安心感があるから話せるし、その結果として、「そうだっ」と気づくわけです。
 そうした本人の気づきをずっしりと受け取っているので、カウンセリングが終わるとかなり疲れます。一日にカウンセリングを五件やると、相当な疲れを覚えますね。

 カウンセラーは常々誠実でなければならないし、また、私欲があってはならないと思います。「転職に成功させる」ことが先に立つと、クライアントとの関係がギクシャクして、信頼が崩れる原因になってしまうでしょう。まずなによりもカウンセラーへの信頼がないと、相手はプライベートなことを話す気にならないわけです。


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『慮る力』 お断り この本の目的は、純粋に「ビジネスマンの意識」について論じたものであり、いかなる商品・サービスの購入、団体への加入をも推奨するものではありません。また本書は、あらゆる商品・サービスの宣伝、宗教・政治など諸団体の活動とはまったく無関係です。この本は2001年に取材したものであり、内容が古くなっている可能性があります。

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