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「慮る力」単行本 人間力とは慮る力

管理職

N住宅産業
中部・近畿事業部事業管理部 人事総務グループ
チーフマネージャー
Aさん



*「任せる」上司は問題が起きた時に責任を取るのが上策

 仕事を任せるためには、部下に「今までやってきたことよりほんの少し背伸びをすればいい仕事ができるんだよ」と教えてやればいいのです。ほんの少し仕事の範囲を拡げてやることからスタートすればいいでしょう。
 最初は、「そんなこと僕がやるんですか」という不安を持ちます。しかし、年齢なんかは関係ないのです。上司が「この仕事は部下には無理だな」と勝手に考えているだけでしょう。
 私の今の部下には、本社から転属して新しい環境になったので、「こんなことわからん」と最初からお手上げの姿勢を示してみました。知ったかぶりをするよりも、その方がいいと思ったんです。
 部下は最初は「こんな人の下でどうすればいいんだろう」と途方に暮れた様子でしたが、後になって言われたのは、「あの時上司があなたに替わってよかったです。今までは指示に従ってやっていれば仕事が済んだのですが、これからは自分でやらなきゃいけないとはっきり思いましたから。仕事を任せてもらったら、自分でもできるのがわかったんです」。
 
 ただし、任せっ放しにしておくのはまずいと思います。順調にいっていたら何もしなくて良いのですが、大事なところは責任をとってやらなければなりません。何かあったときは隠すことなく、上に怒られに行くときは率先して怒られに行く必要があります。
 重要なのは、部下に「この人は逃げない」という姿勢をはっきりさせて、信頼を勝ち取ることでしょう。問題が起きた時に、上司が自分の責任をうやむやにしようとするから、さらに問題が大きくなるのです。
 部下が本当に困っているときに上司が介入したら、周りの人間もみんな手伝うものです。上司が最初に逃げてしまったら、周りの人も知らんぷりです。
 上司は常にどの部下に対しても「あなたが、私にとって一番大切なんですよ、優先順位一位なんですよ」というメッセージを発しておかなければなりません。そして約束は守らなければなりません。部下は、問題が起こったときの上司の姿勢を見ているのです。約束を守れない状況のときに守らなければ、部下の心は離れていってしまいます。
 中間管理職で、自分の上司に対する態度と部下に対する言い方が一八〇度違う、態度に「表裏」のある人がいますが。こういう態度をとっていると、結局部下がトップの指示を全員が仰ぐようになってしまい、時間がまったく無駄になってしまいます。

*部下を「人間」として心から尊重していますか

 部下の持ち味を活かし人材育成を図るために、上司が心しなくてはならないのが部下を「人間」として尊重する態度、大切にする姿勢です。
 また、上司にとって一番重要な能力は、部下の心をつかむコミュニケーション能力でしょう。それがなければ、部下を効果的に指導する(信頼し信頼され、認め、任せる)ことはできません。
 自分の感情をコントロールするのは上司にとっての立派な仕事の一つです。部下を「叱る」ことはあっても、自分の感情の奴隷になって部下を「怒る」のは何の得にもならならないことなので避ける必要があります。

 さらに上司は部下が何を望んでいるかを知っておく必要があります。「好きこそものの上手なれ」ですから、各人の望みがわかれば、より効果的な指導ができるのです。
 そこで上司は部下に自分の心の中を見せてもらう必要がどうしても出てきます。自分の心の中を打ち明けてもらうために必要なのは信頼の獲得です。弱者は憶病であるがゆえに鋭い直感と観察力を持っています。ですから上司が小手先のテクニックで信頼感を獲得しようとしているならばすぐに見抜かれてしまうでしょう。
 褒める場合には「褒めリスト」までつくって、お為ごかしでなく事実に基づいて真剣に褒める必要がありますし、相手が得意なことにうまく話題を持っていって、話の糸口をつくる工夫が必要です。一人ひとりの部下に合わせて方法を変えなければならないわけですからたいへんですが、まずお互いが信頼できる関係をつくらなければ業績の向上は望めません。
 だからこれは上司の側の仕事なのです。

 部下の信頼感を得て、褒めるところは褒めてやり認めてやって、やっと仕事を任せられるわけですが、その時も観察を怠ることなく、常に心理的にフォローしなければ、部下はすぐにつまずいてしまいます。

 結局のところ、両人のお話を分析してみると、部下を育成するために上司がやらなければならないのは、まさに部下を慮ることだと思います。
 しかし私は、自分自身のことをある程度大切にする人であれば部下を大切にしたいと思うはずだし、「自分はある程度経験と知識を積んで仕事のことがわかっている」という自覚があれば、大切に思っている部下に「自分の知っていることを教えて少しでも自分のレベルまで引き上げてやりたい」と考えるはずだと思います。それが人を育てようとする気持ちの基本ではないでしょうか。
 そういう人が、「知識を全員一律に押しつけようとするのでなく、異なった個性を持つ部下が、各々自然に備えている能力を仕事を通して開花させるのだ」という考え方を身につけ、部下の心の扉を開くことさえできれば、部下の力はどんどん伸ばせるはずです。
 毎日の激務の中で「なぜ部下は俺の気持ちがわかってくれないんだ」と嘆いていらっしゃる管理職の方も少なくないと思いますが、こうした発想でもう一度部下の一人ひとりの顔を思い浮かべながら各人の望みや心の中を探ってみれば、部下の指導にまた違う切り口が出てくるのではないでしょうか。


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『慮る力』 お断り この本の目的は、純粋に「ビジネスマンの意識」について論じたものであり、いかなる商品・サービスの購入、団体への加入をも推奨するものではありません。また本書は、あらゆる商品・サービスの宣伝、宗教・政治など諸団体の活動とはまったく無関係です。この本は2001年に取材したものであり、内容が古くなっている可能性があります。

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