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「慮る力」単行本 人間力とは慮る力

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ジャーナリスト
市民の代理人として取材対象にアタックする 5

日本ビデオニュース社長
神保哲生


*基礎的な力をつける努力の先にやりがいがある

 ジャーナリストを動かしている動機についてですが、僕の場合は、誤解を恐れずに断片的に言うと、まず自分の書いたものやつくったものが多くの人に読まれるのが喜びですよね。小学校の時の壁新聞からスタートしてますから、いいものを書くと足を止めて見てくれる、それを味わいたいという動機があります。
 それから、自分が「これだ」と思ったものを、仮説を描いて、それを取材で裏付けして報道するわけですが、「ああ、この人はどこかで僕が作ったものを見たな」と、人に影響しているのがわかる瞬間があるんですよ。
 自分が人を動かすのが楽しいというのではなくて、自分が最初に考えたものの何パーセントかが多くの人の脳味噌の中に入っていって、それが命を持ち始めるわけです。その結果がどういう形になるかはわかりませんが、それはとっても楽しいことなんです、僕にとっては。だって、ほかの人は気づかなくて、僕の中にある種の蓄積があるから見えてきたネタによって人が動くわけですから。
 もうひとつは、取材を楽しんでいるところがあると思います。「あの人、面白そうだから会いたいな」と思っても、取材目的だから許されるわけであって、そうでなく、単純に会おうとして追いかけたらストーカーになってしまいますよ。
 アメリカから日本に来ている人を、のこのこホテルの部屋まで訪ねていくわけですから。寝ているところを起こして、「ちょっと話を聞かせてくれ」というと、一〇人のうち八人まではラウンジに降りてきてくれますよ。そういうのも、「そこでいろいろ質問したことを、僕のジャーナリストとしての客である読者や視聴者に、将来的に何か還元できるだろう」と思うから、僕にとっては良心の呵責はないわけです。
 それがもしビジネス目的だとすると、ホテルの部屋まで押しかけていって話を取るというのは、どう考えても正当化できないことだと僕は思いますね。

 資質については、自分には人並み外れた洞察力や認識力があるとは僕は思っていません。淡々と、毎日こつこつ調べて取材してやっていることです。それを続ければ、そのうち「どうすればいいか」というコツが見えてくる。
 若い記者には、「毎日取材を続けると、一日一日電話帳の薄い一ページくらい成長する。だから毎日の違いはわからないけれど、五年くらいやると厚くなってくるし、一ページが薄ければ薄いほどそれは束ねたときに頑丈なんだ」と言っています。それを淡々とやるということは、僕はできますね。
 ネタを見つけるのも、方々の情報をなんだかんだ引き出しているし、それを自分の中でひねり回しているから何かの拍子でネタが見えるわけです。何もしなくて閃くということはありません。結果的な閃きなんでしょうね。僕はコツコツやっていくのが楽しいと思っています。

 僕が学校を出てAPに入った最初の五年間は、毎日考える余裕もなく泡を食って取材してましたよ。それくらいやらないとAPの基準に乗る記事はつくることができなかった。徹夜もしたし、夜討ち朝駆けもしました。
 スター記者の実力に目を見張るよりも、前の年に入社した自分よりも一つか二つしか年が違わない二軍の補欠の記者が、取材してきて、パッと記事を書いてしまうのを見て、目を丸くしてしまった。「僕も、あんなふうになれるのかな、この先、彼との差は広がる一方なのではないか……」、そういう人がアメリカのジャーナリズムの中では小物中の小物でしかないわけです。こんなに自分が小さく見えた瞬間はなかったですよ。
 そして、年がたってくるほどレベルがどんどん上がってきて、昨日の自分が小さく見えてくる瞬間があるわけです。自分では「そこそこのところまで来た」と思っても、それは昨日よりも上に上がっているだけであって、また明日になったら今日の自分は当然小さく見えるわけです。
 周りとの関係と、自分の成長という2つの軸で考えるのですが、なかなか自分が成長している感覚がつかめませんから、「ああ、ダメだな」というふうに思って、ますます自分が小さく見えましたね。
 通信社というのは、事件発生の三〇分後が締め切りですからね。当時はUPIに抜かれるわけにもいかないし、速ければいいというわけでもなし。血眼でやってた時期がありましたねえ。
 しかしその五年間があって、逆に幸運だったと僕は思う。明らかにあの五年があったから今の自分があると確信できます。「それを我慢しないと、いいジャーナリストにはなれない」と、うちの会社の若い人にも言っているわけです。基礎的な投げる力、打つ力、走る力を身につけないと。

*「みんなでこの社会を支えている」から成り立つ仕事

 私も一人のジャーナリストとして、神保さんの経験に基づいたお話にはまったく同感します。
 結局のところジャーナリストという仕事は、読者や視聴者という市民の利益を考え、市民の代理人として取材対象にアタックする仕事なのだと思います。
 世の中にはメディアはいくらでもありますが、その中でも信用されているメディアのことをジャーナリズムと呼び、そうした信用できるメディアの存在が民主主義を支えているわけで、ジャーナリストにはなによりも「重い社会的責任を背負っている」という自覚、「社会はどのようにして運営されているのか」という理解・価値認識や、「報道を通して社会に参加したい」という強い動機が必要なのです。

 取材のテーマを選ぶときは、読者にとって身近で意味があり、かつおいしく料理できる素材でなければなりません。読者が何に興味を持つかを知る共感性が必要です。
 ある時アイデアが閃くのではなく、コツコツと情報収集していくうちに自分自身の問題意識と、現実に起こっている事実が重なる瞬間があるはずなのです。

 取材の時は、ジャーナリストは「読者に対して責任を負っている」のであって、取材対象者とは何の利害関係もないわけです。この点は非常に重要なことなのに多くの人が誤解していますが、取材対象者にとって有利になることでも不利になることでも、読者に必要なことはきちんと伝えるのが、ジャーナリストの仕事です。
 ですからいつも接触している政治家や企業経営者とどんなに仲良くなったとしても、「その人のためになる記事をつくろう」などと考えた瞬間に、それは取材先との癒着であり、読者に対する裏切りなのです。
 ジャーナリストはあくまでも客観的な立場を貫きながら、相手の本音を引き出すべきであり、相手を怒らせて口を滑らせるのはルール違反ですし、相手の話の何が本音なのかを判断できるだけの材料を先にきちんと調べておかなければなりません。

 取材対象者には、取材を拒否する自由もあります。ジャーナリストが欲しい話を引き出すためには、相手との信頼関係ををつくる必要もあります。
 客観的、第三者的な立場を維持しつつ相手との信頼関係を築くにはどうすればよいか、難しそうに思えますが、「正面から説得するのが一番だ」と神保さんは言います。私もそう思います。
 相手が話したくないものを無理矢理引き出すのは拷問でもしない限り絶対に不可能です。しかし、それを世の中に知らせることが、社会全体のために必要なんだという、相手の社会に対する責任感に呼びかけることができれば、このような取材もしばしば可能になります。それは取材相手が、「全体利益のために自分の私利私欲を捨てよう」と決断する瞬間です。その決断を引き出すことができれば、これが良い取材になるのは当然です。そのためには、ジャーナリストは確固たる価値観を持っていなければなりません。
 したがって、ジャーナリストというのは社会全体のために行動するという、全体に対して慮るの姿勢を持たなければなりませんし、そこからスタートしてテーマを探し取材を行う公的な視点を持続しなけれはならないのです。
 そのような仕事が成り立つのは、すべての個人が社会全体につながっており、「みんなでこの社会を支えている」という人々の自覚があるからです。それを知っている人は、ジャーナリストに対して心を開き積極的に協力します。ジャーナリストは彼らの動機をよく理解し、社会全体の利益に結びつける仕事なのです。


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『慮る力』 お断り この本の目的は、純粋に「ビジネスマンの意識」について論じたものであり、いかなる商品・サービスの購入、団体への加入をも推奨するものではありません。また本書は、あらゆる商品・サービスの宣伝、宗教・政治など諸団体の活動とはまったく無関係です。この本は2001年に取材したものであり、内容が古くなっている可能性があります。

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