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「慮る力」単行本 人間力とは慮る力

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マンション建築コーディネーター
「心の旅」の終着点=オーナー意識に究極の顧客満足がある 3

T社社長
Kさん


*相手の納得を引き出す手練手管

 それから、すでにコーポラティブハウスを建てて、実際に住んでいらっしゃる方のお宅を三軒ほど見せていただく住戸見学会というのも行います。
 住人の方に、「ここは成功したところです」とか、「ここが自慢です」「少し失敗しました」という話をしていただき、自分のイメージと比べていただいて、「子供部屋はこの程度の大きさでいいな」とか「リビングはもう少し広くしたいな」などと考えていただきます。そうすることによって設計者に対して自分のイメージを伝えやすくなるわけです。

 こうしたことや、雑誌や本の情報を合わせて設計者の人と相談し六カ月ほどかけてプランを固めていきます。
 平面図やパースができあがったところで、総会で同じコーポラティブハウスの住人たちを相手に、「私のプランはこんな感じです」と発表会をしていただきます。「私の家はこういう感じで、ここが自慢です」と延々とおしゃべりする人もいますし、あいさつだけして「あとは設計者の方にお任せします」と言う方もいらっしゃってさまざまなのですが、こうした発表会をしておかないと、後になって家ができ上がりお互いを招き合ったときに、「なるほどこれはいいアイデアだが、どうして先に言ってくれなかったんだよ」などということになりかねないないからです。
 しかしあらかじめこのようにお互いのプランを説明しておくと、もう既に十分自分のプランを練り上げているので、他人のプランを聞いても、「なるほどいいかもね、あのアイディアはちょっとだけ取り入れよう。でもやっぱりうちが一番いいな」と自分のプランに納得されるようです。
 オーナーのこだわる点ですが、男性は風呂にこだわる傾向があります。女性はキッチンと収納です。男性は書斎をつくるスペースがなかなかなくて風呂でしか一人になる空間がないからなのかと思ってしまいますね。

 その後は、一戸一戸プランを詰めていく作業に入ります。
 プランニングができて平面図を起こし、立面図を決め、ドアノブの色や仕様などを細かく決めていきます。この過程でコンセプトがはっきりしてなかった人は、平面図に戻って図面を引き直さなければならなくなり建築家を煩わせることになります。
 「壁の色は何色にしますか」と建築家に聞かれた時に、「じゃ一週間後に雑誌を見て返事します」と答えたものの、雑誌をめくっていて気に入ったものがあったり、あるいは誰かに図面を見せて相談したときに、「こっちのほうがいいんじゃない」などと言われて変更したくなる人もいますし、照明計画を考えたときに「壁に埋め込むタイプのブラケット蛍光灯がいいな」と考えて、「この壁をもう少しずらすと壁が均等になるんですけど」とか、「エアコンのスペースも変更したいな」などという細かい点が出てくるので、ここも建築家とやりとりして詰めていきます。

 コーポラティブハウスは、「家の中を自由に設計していい」建前ではあるものの、他の住戸の迷惑になるような変更はできません。例えば梁やコンクリートの厚さ、床材の仕上げを変えることや、隣の家の窓と見合ってしまうような窓をつくることはご遠慮いただかねばなりなりません。「ジェットバスがいい」という方もいらっしゃいますが、駆体振動を起こしてしまうので防振ゴムをつけるなど振動対策をしても難しい場合もあります。
 大学教授の方で「一二畳の部屋をすべて書庫にしたい」という方がいらっしゃって、構造上柱を厚くしなければならないということがありました。そうすると下の住戸の方と調整して柱を変更しなければならないことになります。このようにコーポラティブハウスには一軒家を作る以上に難しいことがあるのです。
 隣接する住戸の人と調整する場合は、「隣の人がこういう変更をしたいので協力してほしいと言っていますが」と説明すると、「それはいい、私もそのアイデアいただきたいですね」と協力してくれる方もいらっしゃいますし、「いや、それをやると私のプランがだめになってしまうので困ります」という方もいらっしゃいます。後者の場合は、あくまでわれわれが提示した初めの構造の考え方に戻るわけでして、「変更はできない」という結論になります。

 こうして設計が細かいところになればなるほど、夢がふくらんできます。
 住宅雑誌などを見るといいものばかりが載っています。ショールームに行くと、三〇〇万円のキッチンもあれば、二〇〇万円のキッチンもあるわけです。それは高いものの方がいいに決まっています。雑誌を見れば見るほど予算の金額は上がっていきます。しかし、ローンを組める金額にも限度がありますから、「オーナーが大事だと思うもの、譲ることができないと思うもの」の順に優先順位をつけていただきます。この順位は見積が出る前につけていただくというのがミソです。
 そして、「ローンは標準価額の三〇〇万円までならオーバーしても組める」となった場合、優先順位の低いものから順番に金額の合うところまで切っていただきます。いったん夢を持ってしまった後、見積を見てその夢を切り捨てていくというのはなかなかできないことなんです。ですから先に順番をつけるのが大切なんです。
 建築家としても、「こんな風にできますよ、あんなふうにもできますよ」と大きな夢を見せておいて、金額を固める段階でバッサリ「できません」と言うとオーナーは大きく落胆することになります。ですから建築家は、オーナーが「予算から見て理想や夢を見すぎている」と判断すれば抑えに回らなければなりませんし、また、「あまりにも夢を持っていない」と思うと逆に夢を膨らませる必要があります。建築家の中には、予算をオーバーしてクレームがくるのを恐れるあまり、「あれもできない、これもできない」とリスクヘッジに回ってしまう人もいます。

 オーナーに夢を膨らませて落胆させないためには、建築家はいろいろなテクニックを使います。
 例えばオーナーが壁を石貼りにするプランが気に入っていて、しかも予算が合わないことが予想される時には、建築家は「この仕上げだと高いですがビニールクロス張りだと安くて、こちらも悪くないですよ」と最初から二つの選択肢を提示しておきます。後で「予算を削る」という話になってクロスの案を提示しても、オーナーの方は「ああ、前に言ってたやつですね」と納得して、「妥協をした」とは感じません。あるいは「石貼りは成金趣味的でよくないですよ、ビニールクロスだと予算は半分になるし三〇万円安くなって得すると思いませんか」と説得を試みたりもします。
 うまい建築家は、あらかじめ見えないところで仕様がいいものを入れておいて、予算がオーバーした時にそこを削ることでオーナーに満足してもらう手も使います。例えばタイルは、輸入物と国産で値段が倍近く違うことがあります。しかし素人目には国産のタイルに変更してもあまり違いはわかりません。だから「予算を落とさずに、建築家のアイデアでいいものができた」とオーナーに感謝されるわけです。
 収納スペースにしても、家具として外でつくってきてはめ込むと非常に高いのですが、大工が扉を作りその中を収納スペースとすると、見た目はわからなくて値段は格段に安くなります。そういうものを最初にプランに入れておくという手もあります。


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『慮る力』 お断り この本の目的は、純粋に「ビジネスマンの意識」について論じたものであり、いかなる商品・サービスの購入、団体への加入をも推奨するものではありません。また本書は、あらゆる商品・サービスの宣伝、宗教・政治など諸団体の活動とはまったく無関係です。この本は2001年に取材したものであり、内容が古くなっている可能性があります。

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