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「慮る力」単行本 人間力とは慮る力

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自動車セールス 
顧客との望ましい「人間関係」を継続する黄金のセオリー 2

N自動車販売 S店営業課長
Mさん



「車を買いたい」と思われる方が店頭に来られるところから話を始めましょう。お客さんが店頭に来る目的は、「実際に車を買うにはどれくらいのお金が必要か」を見に来るわけであって、重要な情報は「どのくらい値引きをするのか」「下取り価格はどのくらいか」ということなのです。
 多くのお客さんは車の性能などはたいして気にしていません。車が好きな人は自分で調べてからいらっしゃいます。ですから、予算と、車のデザインと、応対する営業マンと、営業所の雰囲気を見るために来られているといってもいいでしょう。
 ですのでお客さんに「幾らですか」と尋ねられて、金額を言ってしまうと、「ああ、そうですか」と帰っちゃうわけです。だから、その前に「この車が欲しい」という気持ちを精一杯盛り上げなければ、とても買ってはもらえません。お客さんの購買意欲を高めたり、セールスマン本人が気に入ってもらう機会は、値段を言うまでが勝負なんです。
 お客さんは金額を一番知りたいし、こちらもお話ししたいわけですが、いきなり「本当は値引きできるのはここまでなのですが、特別に頑張りました」と言ってもダメなんです。

 そこで、まずカタログでアピールする点を強調し、実際に乗っていただきます。例えばセフィーロであれば、アピールするポイントは広さやシートのゆったり感です。「北米輸出仕様なので、どの車のシートよりも座面が広くできています。乗り降りがしやすいし、エンジン音も静かです」という感じです。
 実際に車に乗っていただいて説明をすると、どんな方でもだいたいご納得いただけるはずです。どうしてかと言うと、その人が今現在車に乗っているとして、五、六万キロも走っているとすると、必ず車は痛んでいるはずです。ところが展示場に置いてあるのは新車ですから、乗ってしまえば今の車よりもいいことはくどくど説明するよりも簡単にご納得いただけるわけです。ポイントを挙げて説明しても、お客さんは五つも聞いたところで飽きてしまうでしょう。

 展示場の車に乗っていただいて、「今日たまたまこれと同じ車がありますので、一周りだけ外を走ってみませんか」と軽い気持ちで勧めます。
 乗って外に出てしまえば、車の中は密室ですからこちらの話を聞くしかありません。実際に運転していただきながら、広さや静さなど、「さっき言ったの本当でしょう、今の車と比べてどうですか」と説明するわけです。
 ただし、お客さんが運転が上手か下手かで話し方は変えなければなりません。ポイントを一つ話して、すぐ返事が返ってこないようであれば、運転に精一杯なわけで、話しかけてもうるさく思われるだけですから、じっくり乗っていただいて後でお話しします。すぐ返事をしていただける方であれば運転中に話しかけても問題はありません。

 奥さんや後ろに乗っているお子さんにも尋ねます。「ぼく、この車いい?」と聞いて、「パパ、これがいい」という返事が返ってきたらしめたものです。子供の意見は非常に大切にされます。同じような車であれば、子供がいいと言った方になるに決まっています。ですからお子さんに嫌われてはなりません。
 この展示場には、お子さんの遊び場があります。ご夫婦で金額などについて話し合っているときにはお子さんがじゃまになりますから、遊び場で遊んでいてもらうのですが、私はなるべくかまってあげることにしています。子供に景品をあげたり、ジュースを買ったりするのですが、それで車が一台売れれば安いものです。
 遊び場には、乗って遊べる子供向けの玩具の車が置いてありますが、これが意外にもお子さんに大人気で、商談の間じゅうずっとショールームの中を乗り回して、展示車にぶつけたりして遊んでいます。家に帰ってからも、「パパ、またN産に行こうよ」と親にせがむ強力な武器になっています。

 試乗していただくということは、その車に乗ったという既成事実をつくって断りにくくしてしまうということなのですが、お客さんとしては当然「セールスマンに囲い込まれたくない」と思っているわけです。そこで、あくまでこちらの「囲い込みたい」という気持ちを悟られないように、「ちょっと乗ってみてください、そうするとわかると思いますよ」と、全然軽い気持ちで勧めます。そうすると「買おう」と潜在的に思っている人は乗っちゃうわけです。
 言葉の端々で、「買う方向に持っていきつつある」のを確認しながら話を進めますが、「ぜひこれを買ってください」とは見積の段階まで絶対に口にしません。あくまでお客さんに楽な気持ちでいていただくことを心がけています。
 とにかく警戒心を抱かせないこと。「自分がセールスマンであること」を強く意識して、「セールスマンに何をされたらお客さんは嫌か」を考えるわけです。そうすると、自分で選択する自由を奪われて無理やり買うされるとか、払わなくてていいお金を払うように追い込まれるのが一番嫌なことがわかりますよね。だから「追い込まれつつある」ということをお客さんに意識させずに話を聞いてもらうのがコツでしょう。
 こういうことは入社当時すでに気がついていたと思うのですが、うまくできるようになったのはしばらくたってからのことだと思います。

 次に、「では下取りの査定をしましょう。車検証を見せていただけますか」ということになるのですが、車検証には、自分の住所が書いてあるので、私に訪問先がばれてしまうことになります。ですが警戒させないように気軽に言えば、抵抗なく車検証を出してくれます。
 お客さんが気がついた時には、もう住所はばれているし、下取りの価格が出ているし、子供は車を気に入っているし、この人もまんざら嘘をついてるようじゃないみたいだし……という状況になっていて、値引き価格を聞いて他社と大きな差がなければ、だいたい八割方は「商談成立」だと思います。
 店頭で買われる方は、だいたい二回以内の商談で決める方が多いんです。私も若いころは三カ月や半年間かけてお客さんを口説いていましたが、自分が抱えているお客さんが多くなってくるとそこまでできないので、そういう営業は気持ちとしては若手に譲ったつもりになっています。「セールスを始めて二、三年の若手の修行の場」というのが店頭でのセールスだと思うんです。


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『慮る力』 お断り この本の目的は、純粋に「ビジネスマンの意識」について論じたものであり、いかなる商品・サービスの購入、団体への加入をも推奨するものではありません。また本書は、あらゆる商品・サービスの宣伝、宗教・政治など諸団体の活動とはまったく無関係です。この本は2001年に取材したものであり、内容が古くなっている可能性があります。

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