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『慮る力』講演会  質疑応答

壁に立ち向かうのは自分、自信を持て


男性 東京都昭島市から参りました、先生のお話をとても興味深く伺いました。
 リラックスして他人の心に共感を持って、いずれは無になるようなところまでいけば、生きやすくなるようなお話はとても感銘を受けたんですけれども、それで視覚障害者の場合はなかなか、視覚障害者になりましたときに、目を失ったことによる失望感とか、職業を失うことによる失望感とか、周囲の無理解に対する怒りというものがありまして、悩んでしまうわけですね。
 悩みがありますと、どうしても他への共感能力を失ってしまいまして、まず自己保存の方に走ってしまうわけですが、なかなか自己保存の段階から脱却できない視覚障害者が多いと思うんです。先生に伺いしたいのは、そういった悩みの状態からリラックスして共感能力をもって自分を無にできるような、なにかターニングポイントになるようなきっかけというか動機付けというようなものがありましたらと思いまして、質問させていただきました。

岡本 これは、私のような若輩がお答えできるようなことではないんですね。皆様が持っておられる悩みは、健常者には到底理解できない部分もあるわけです。
 ですから、もし簡単に僕が「ああ、それはこうすればいいんですよ」なんて言ったら、そんなの絶対うそだと思いますね。僕もこれは本当にわからないというふうにお答え申し上げるしかないんです。


 ひとつだけ申し上げるとするならば、それは時間と経験をかけて、各個人がご自身の心の中で乗り越えていくしかないことだと思うんです。
 僕の中で、じゃあ何が似たようなこととして考えられるかといったら、あんまりないんですけれど、ただ撲は、取材したり、あるいは何か新しいことを始める時って、ものすごい壁があるんです。例えばこの『慮る力』を書く時だって、今お話ししたようなことが、最初から見えていて、取材をスタートしたわけではないんです。だから今、世の中に必要だと思う「慮る力」を書くとするのならば、どういうふうな書き方があるだろうか、どういうところを取材すればそれが出てくるかというのを、ゼロからスタートして考えるわけです。
 どの仕事でもそうなんです、この前に書いたノンフィクションでもそうです。スタート時点では、とにかく巨大な壁があるんです、大きい。どう手をつけていったらいいかもわからない。じゃあとにかく一生懸命調べるんです。どこかに登り口があるに違いないと。すごく苦しいんです。苦しいけれども、ある程度時間をかければどこかに登り口が見つかるんです。
 実はそのときに必要なことがひとつだけあって、それは自信なんです。僕は取材経験が16~17年ありますから、「その間の経験があれば、この問題はなんとか解決できるに違いない」と。「ゼロから始めても、これを作ることはできるだろう」という自信があるから、壁に立ち向かうことができるんです。


 ところが皆さんの場合は、失明の経験なんてだけでも初めてなわけですから、克服する自信なんかないですよね。そうすると非常に不安だと思うのです。
 それを克服するには、克服ができた他の人の経験が一番参考になるのではないかと思います。
 今、そうした不安を他の皆さんもお持ちだと思うんです、その人たちがどういうふうに不安を乗り越えたか、乗り越えて自己保存の生き方から、リラックスして他人のことを考える心の余裕を得たかという、そういうことをこの会の中で共有してらっしゃると思うんですけど、そちらの方がおそらく私の話よりもご参考になるはずだと思うんです。
 それが、私がいま申し上げられる一番誠実な答えです。お力になれなくて申し訳ないのですが、ヒントにしていただければということです。

人間力とは、「大人になること」と見つけたり

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