仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

「正義の人」 シナリオ版「仙波敏郎物語」 




●社会を守るために





□瀬戸大橋の中のサービスエリアの駐車場

  東が運転し、仙波が助手席に乗っている。
  東が車を停めると、前方不注意の車に追突されてしまう。
  すぐ近くにいた岡山県警のパトカーがサイレンを鳴らしながら駆けつけてくる。
  仙波たちは、首を抑えながら車から出てくる。
  ひとりの警官は、追突した車の運転手から事情を聞いている。

東「大丈夫か」

仙波「うん、なんとか」

警察官「大丈夫ですか? (仙波の顔をのぞき込んでハッとする)……あの、仙波さんですよね」

仙波(首を抑えながら)「そうです」

警察官「今日はどちらへ」

東「岡山県で講演に呼ばれとるんですよ」

警察官「なるほど。裁判に勝ってよかったですね。仙波さんのおかげで、われわれも領収書を書かんでようなりましたよ」

仙波「そうですか」

警察官「うちの県にも、仙波さんみたいな人がおらんといけんのですけどね」

仙波「だけど、僕がやったのは、警察官として当たり前のことなんですよ。公務員には不正の告発義務がありますからね。そう思うんじゃったら、あなたが第二の仙波になったらええじゃないですか」

警察官「とんでもない、うちはまだ中学生のガキがおりますから……。事故処理はやっときますんで、お茶でも飲んどってください」



□サービスエリアのレストラン

  仙波と東は首を押さえながら座ってコーヒーを飲んでいる。
  そこに年配の婦人がやってくる。

婦人「あのう、仙波さんですよね」

仙波(居住まいを正して)「そうです」

東(ニッコリして) 「有名人はつらいのう」

婦人「仙波さん、ありがとうございました」

仙波「あの、僕、何かあなたにお礼を言われるようなことをしましたでしょうか」

婦人「はい。仙波さん、あなたは私たちのために内部告発をしてくれたんです。
 だって告発なんかしても、仙波さんには何の得もないでしょう。警察の中でますます生きにくくなるだけで。
 それでもあなたは私たちの社会を守るために、自分を捨てて立ち上がってくれました。だから私、ひとことお礼を言いたかったんです」

仙波(感動して)「ああ、あなたはすべてわかってくださっとるんですね」

  仙波と東は車に乗り込む。

東「じゃあ、行こうか」

仙波「ああ。行こう」

  警官たちは仙波の車を最敬礼で送り出す。
  仙波たちの乗った車は瀬戸大橋を渡って走り去っていく。


仙波の起こした国家賠償訴訟は08年9月30日2審判決でも仙波側が勝訴した。愛媛県は、最高裁への上告を断念し、仙波の勝訴が確定した。
その2週間後、東は狭心症の発作で急逝した。享年59歳。
仙波敏郎は09年3月31日、愛媛県警察を定年退職した。
しかし警察庁は、いまだに裏金の存在を認めてはいない……。






 ---このストーリーを東玲治氏に捧ぐ。





【この項終わり】

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この物語は事実に基づいていますが、一部の登場人物、警察幹部間のやりとりなどは創作しています。またいくつかのエピソードは場所を変えたり、実際より省略、時間を前後させて描いています。