仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

「正義の人」 シナリオ版「仙波敏郎物語」 

●なぜ警察は負けたのか.2





□松山城堀端 続き

正岡「それと、とっても大切なことは、共同体的な考えから抜け出して個を確立するというプロセスは、人類すべてが進歩の過程でたどるべき道であるという認識を丸山真男はもっていたと思うんです。
 それを彼は『超歴史的』な次元の範疇、と表現しています。
 警察も共同体から、もともと川路利良がつくったときの機能組織に戻る、というか進化すべきなんですよ」

東「サルが人間に進化するような、一方向的な進化なんやね」

正岡「そういう進化を遂げて初めて、人は
 権力は相対的なものに過ぎないという意識や、
 外的権威により屈服させられることのない普遍的価値への信念を持つことができると丸山は書いています」

東「僕らの世代は、もうそれに気がついとるよ。
 仙波君は、立ち後れた警察組織の中では一足早かったということやろう。でも警察でもこの後の世代は、仙波君についてくるはずやね」

正岡「東さんや仙波弁護団の先生たち、支える会に参加した県民のみなさんは、組織にべったりと依存するのではなく、何が正しくて、何がまちがっているかを自分で判断して、正しいことを貫きたい、という理念で結びついていますよね。そこが役所や県警のような、利己心で結びついた烏合の衆と違うところです」

東「だけどねえ、国賠訴訟に負けて、県警や警察庁は反省しているかというと、ぜんぜんしていないと思うよ。
 だって、もともと自分たちが守るべきものが何なのかがはっきりわかっていないんだから、裁判に負けても何かを失った、とは受け取っとらんでしょう。せいぜいメンツが潰れたくらいにしか感じとらん。
 ただ、自分の味方のはずの裁判所に、ちょっと仙波をいじめすぎだからいいかげんにしなさいと言われたので、仕方なく矛を収めただけで、ホントは自分たちは悪くないんだ……くらいに思っとるよ」

正岡「県警は、県民より、警察共同体のトップである本庁を向いて仕事をしてますからねえ」

東「仙波君ははっきりと、今後の警察は市民のことを考える方向にいくべきだ、と主張しとるけどね」

正岡「仙波さんの姿勢に理解と共感を示す人たちは、パブリック、つまり自分の属する社会はみんなのものであるということがわかっている人だと思います。
 個が確立していて、自分の中に他人を受け入れることができるオープンな人だからこそ、そういう認識が持てるんです」

東(笑って)「県警のような共同体のみなさんは、パブリックの世界の中に勝手に利益集団を作って、税金を横領し、将来世代の負担を押しつけてまで自分たちの利得を図ろうとしている犯罪者ということですよ。そういう人は、仙波君のことを、組織の敵と呼んどるけどね」

正岡「東さん、人間はなんのために仕事をするんでしょうかね。
 それは自分のためじゃなくて、相手のためなんじゃないでしょうかね。
 人は仕事をすれば、仕事相手を通して世の中全体に働きかけることができます。人はそのように仕事を通して社会的存在たり得ると思うんです。それが仕事の持つ本当の意味なんじゃないでしょうか。
 でも、共同体の内側だけ向いてたんじゃ、意味のある仕事はできないと思うんですよ」

東(にっこりして)「僕も、仙波君も、多少は意味のある仕事がしてこれて、よかったと思っとるよ」

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この物語は事実に基づいていますが、一部の登場人物、警察幹部間のやりとりなどは創作しています。またいくつかのエピソードは場所を変えたり、実際より省略、時間を前後させて描いています。