仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

「正義の人」 シナリオ版「仙波敏郎物語」 

●口頭弁論





□松山地方裁判所前

  仙波は、隊列を組んだ20人近い弁護団を従えて、堂々と裁判所に入る。
  弁護団に報道陣がフラッシュを浴びせる。
  傍聴券を求める長い人の列ができている。

係員「傍聴の抽選券の配布はこちらです」

仙波「東君、県警の連中がたくさん来とるぞ。OBもいっぱい並んどる」

東「どういうつもりなんやろ?」



□裁判所内

  口頭弁論では、菅の証人尋問が行われている。
  傍聴席はガラガラである。
  正岡は最前列の記者席に、東はその斜め後ろの席に座って話している。

正岡「あんなに並んでたのに、ガラガラじゃないですか」

東「警察の連中は、傍聴人を少なくするために並んどったんよ。
 さっきOBを捕まえて聞いたら、朝並ぶだけで傍聴券をもろたら帰ってもええ、いうて聞いたんで並んで傍聴券をもろたんやけど、この券どうしたらええんやろと聞かれたで」

正岡「なぜそんな暇なことに協力するんですかね」

東「そりゃあんた、来んかったら、警友会での立場がないけんなあ」

正岡「OB会ですね」

東「知っとるやろ、警察いうんは、あくまで一家よ。退職したときの階級のままで警友会に入って、一年中、飲み会も遊びも、ぜんぶ警友会ですますんよ。彼らはそういう共同体の中でしか生きられんのよね。
 だから警友会が、仙波の裁判をつぶしに行け、言うたら何も考えずに朝から並ぶわけよ」

正岡「警察らしい話ですね。
 ところで被告人側は県警の人間ばかりだなあ。警部クラスかな」

東「あいつらは指定代理人というてね、本部の各部から一人ずつ来とる。今日の内容を聞いて帰って報告するだけよ。全員裁判の素人なんぜ。
 愛媛県が被告なのに、県の人間はひとりも来とらん。あと弁護士も3人おるけど、裏金のことはなあーんも知らされとらんけん、何も言えんのよ。やけん、尋問するんは裁判の素人の県警側の人間になるやろうね」

正岡「ただ座っていてもらうために、弁護士費用を払ってるんですか?」

東「県民の血税でな」

被告代理人(県警側)「では、上司のあなたから見て、原告の勤務態度はどうでしたか」

菅「原告は普段から、やる気がないというか、仕事に対してはまったく積極性がありませんでした。そればかりか、言葉がきついんで、周囲とも摩擦を起こしやすく、とても扱いにくかった。
 これは職場のみんなが認めることだと思います」

被告代理人「原告は、息子さんや奥さんのことで情緒不安定気味だったのですか」

菅「はい、それもあってみんなが腫れ物にさわるような感じで付き合っとりましたが、まさかこんなことを起こすとは」

被告代理人「あなたは、原告の拳銃を保管替えしたご自分の判断についてはどう思っていますか」

菅「ですけん、そんな性格の原告が、爆弾的に、辞めるときは死ぬときだ、なんて公言した以上、拳銃を取り上げるのは当然ではないでしょうか。告発の前日、原告と話したのですが、原告は、ぼくは息子と妻の敵討ちのために内部告発をするんだ。息子の面会にも行った、妻の墓参りも済ませた。もう思い残すことはない、なんて言うてたんですから」

仙波(声を荒げて)「ウソをつけ、そんなことは一も言うてないぞ」

裁判長「原告は静粛に」

  仙波の抗議は裁判長の心証を害する。
  いきり立つ仙波を、古茂田と今井が制止する。

被告代理人「なぜあなたは原告を通信司令室に異動させたんですか」

菅「危のうて、市民と接する鉄警隊には置いておけないと、わたしが判断しました」

  古茂田は菅に反対尋問を行う。

古茂田「本当に仙波さんにはやる気がなかったんですか? 他の鉄警隊員の警乗記録はどうなっていますか?」

菅「警乗の記録は公共安全情報であり、隊員個人のプライバシーが明らかになるような証言はできません」

  古茂田は本部刑事部長に反対尋問を行う。
古茂田「実際には、県民に対して捜査協力謝礼を支払ったことはないのではありませんか?」

刑事部長「いえ、ちゃんと支払っておりますよ。捜査上の秘密と、協力者の保護という観点から、細かいことは一切お話しできませんが」

  沈黙する弁護団と傍聴席。

b.pnga.png

この物語は事実に基づいていますが、一部の登場人物、警察幹部間のやりとりなどは創作しています。またいくつかのエピソードは場所を変えたり、実際より省略、時間を前後させて描いています。