仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

「正義の人」 シナリオ版「仙波敏郎物語」 

●合流





□古茂田弁護士事務所

  仙波が古茂田に相談している。

古茂田(決意を込めて)「仙波さんの今の状況は、わたしたちの依頼による告発会見の結果ですから、私たちには何とかする責任があると思っています。告発会見直後に、仙波さんをひとりだけ異動させているので、不当配置転換と言えます。異動の無効と損害賠償を請求する国家賠償訴訟を提訴できるわね」

仙波「先生、異動は取り消してほしいけど、僕は警察の裏金の存在についても裁判で争いたいんですが」

古茂田「もちろん、裏金の実在が証明できれば、仙波さんの告発は正当で、これに対する懲罰的な人事は違法な内部告発潰しと言えます。反対にもし裏金がなければ、仙波さんは虚偽の告発をしたのだから異動は当然ということになるわね。つまりこの裁判では、裏金のありなしは争点のひとつなの。
 ただね、仙波さん、警察が裏金を作っている確かな証拠を何か持ってますか」

仙波「いや、これというてありませんが。でもみんなあ知っとることなんです」

古茂田「では、裏金の存在について証言してくれる人が誰かいますか」

仙波「難しいですね。僕以外の警察官はみんな領収書書いとるから、そういう証言をした瞬間に、犯罪者として警察に葬られてしまいます。巨悪を隠すためのトカゲの尻尾切りですよ。
 警察を退職した人に証言を頼んでも、親戚で警察官をしとる人がおったら、その人に迷惑がかかるから断られます。だから誰も証言できないんです」

古茂田(ため息をつく)「これは難しい裁判になるかもね。北海道で裏金を実名告発した、元道警釧路方面本部長の原田さんには証言をお願いしてみましょう」

仙波(やや不満そうに)「先生、僕はあの人はどうも好きになれないんです。

古茂田「どうして?」

仙波「だってあの人は道警のトップとして、今までさんざん裏金をつくらせて、つかってきた立場の人やないんですか。それが退職して7年たって、横領や背任の時効になってから出てくるなんて、現職で告発をしている僕としてはどうもおかしい思うんです。もっと言うと許せない気がするんですが」

古茂田「なるほどね。その気持ちはわかりますが、この際貴重な味方になってくれるかもしれない人なんですよ」

仙波(しおれて)「そうですねえ」

古茂田「それから、私が弁護団を組織します。だけど、私たちには法律的なこと以外はできないの。だから仙波さんをサポートする団体があるといいんだけど。誰かリーダーになってくれる人はいないかしら」

仙波「僕は警察の中でも独りぼっちですからね。友だちもほんと、おらんようになってしもたし。
 ほうや! ひとりだけ心当たりが。実は2度しか会ったことのない人なんやけど……」

古茂田「たった2度! そんな人が引き受けてくれるのかしら」

仙波「それも、一度は記者会見の場にいただけで、話したのは一度だけなんですけどね」

  言いながら仙波は、その場で東に携帯電話をかける。

仙波「もしもし東君、仙波だけど。
 今度裁判を起こして徹底的に警察と闘うんだけど、ついては僕を支える会の会長を引き受けてもらえんかな」



□東の雑誌社

  松山市中心の雑居ビル。
  雑然とした部屋で、書類に埋もれて東がゲラ刷りに目を通している。

東「ああ、かまわんよ。ちょうど来月で僕のほうもこの雑誌社をたたむから、時間ができる。引き受けよう」

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この物語は事実に基づいていますが、一部の登場人物、警察幹部間のやりとりなどは創作しています。またいくつかのエピソードは場所を変えたり、実際より省略、時間を前後させて描いています。