仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

「正義の人」 シナリオ版「仙波敏郎物語」 


 

●涙の告発





□09年1月20日正午過ぎ 市内の露天駐車場

  仙波は1000台以上駐車できる露天駐車場の車の海の中で時間をつぶしている。
  時間を見計らって、仙波は車のエンジンをかける。



□愛媛県弁護士会館会議室

  仙波は古茂田や今井と会見場に入る。
  50名以上の報道陣から1斉にフラッシュが焚かれる。
  東がカメラを持って最前列右端に座っている。
  仙波は一礼して、まっ正面を見詰め、直立不動で話し始める。

仙波「愛媛県警巡査部長、仙波敏郎です。38年間の警察生活の体験にもとづく真実を話します。愛媛県警からの捜査費の支払いはすべて架空。協力者に支払われた事実はありません。
 署長が裏金として1カ月にもらえるタクシー代は10万円ですよ。その裏金は次長が作っとるんです。
 情報公開制度ができて、私への領収書偽造の依頼もなくなったので安心しとったら、平成13年にもある警察署の会計課長が、わたしの知り合いの署員に偽造領収書を書かせとることがわかりました。わたしはもうそういうことはなくなったと信じとったんで、ショックでした。
 みなさん、これが裏金まみれの愛媛県警の実態なんです」

  仙波は言葉を詰まらせる。

仙波「わたしはただ単に偽の領収書のことを話したいのではありません。現場で一生懸命やっている若い……若い捜査員だとか、……寒い中、昼夜を問わず……頑張っている、そういう現場の警察官は多い。しかし、今のままでは、社会正義を守ることができません。
 私は30年以上巡査部長だが、それはある意味で自慢なんです。警部補以上には、ニセ領収書を書かなければ、なれないからです。今日、ここで、こういう話をすることには、ずいぶん悩みました。昨日も、一睡もしていない。引き止め工作もあった。いろんな意見もあった。売名行為だとか、自分のためにしているんだとか。でも、そんなわけでは決してない」

  仙波はハンカチを出して涙があふれないように
  目頭を押さえながら話す。

仙波「もう一度、言います。現場の警察官は、ほんとうにすばらしい警官です。これから志をもって県警に入ってくる者のためにも、膿は全部出し切って、再出発すべきだと思う。命のあるかぎり、私は自分の……信念を通します。
 自分が38年間も世話になったところを、告発するのはほんとうにつらい……。正直、こんなことを自分がするとは思っていなかった。しかし、私は警察官が好きです。こんなすばらしい仕事はない。いまでもそう思っています。
 愛媛県警の警察官2324人、一般職を入れれば2700人、その大多数がニセ領収書を作っていたとしても、それは家族を守るためだったと、ご理解ください。
 こういう私の発言から、どうしても現場の警察官に厳しい風が吹く。できますならば、厳しい風は管理職に向けてください。現場は一生懸命やってます。愛媛県警も捨てたもんじゃないと思います」

  仙波の横で古茂田も今井もたまらず涙を流す。

記者(よくわからない様子で)「そのう、なぜいちいち捜査協力者の領収書を警察官が書かないといけないんですかね? ごまかすにしても、会計課の人間が書けばええでしょうに」

仙波「それやと、会計検査の時に筆跡が同じでばれるんですよ」


記者「ああ、そうか。それで捜査員が架空名義の領収書を書いて、捜査費が協力者に支払われないということは、そのお金はどうなるんですかね」

仙波「警察署の各課にプールされて裏金になるということです。一部分は県警本部に上納されて、本部の裏金になっていると思います」

記者「その裏金の使い方はだれが決めるんですか」

仙波「私は自分の目で見ていないからよくわかりませんが、幹部たちが自由に使い方を決めていると思います」

正岡「捜査費のうちのどのくらいが裏金になってるんですか」

仙波「ほぼ100%です」

正岡「県警の中で裏金づくりに手を染めている警察官はどのくらいいるんですか」

仙波「私以外の全員です。もしニセ領収書を書いていない警察官がいたら、名乗り出てきてほしい。私は土下座して謝ります」

正岡「つまり警察官全員が文書偽造や詐欺横領をやってる犯罪者であるということですね」

仙波「そうです」

東「それで仙波さん、あんたはこの会見の後も県警に残って、闘っていくのか?」

仙波「辞めるときは死ぬときだ」

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この物語は事実に基づいていますが、一部の登場人物、警察幹部間のやりとりなどは創作しています。またいくつかのエピソードは場所を変えたり、実際より省略、時間を前後させて描いています。