仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

「正義の人」 シナリオ版「仙波敏郎物語」 



●東との邂逅





□04年11月18日県警本部玄関夕方

  仙波の回想終わり

仙波「古茂田先生、わたしは息子の事件まではひとりで裏金と闘っとったんです。そして今はもう抜け殻になっとったかもしれません。でも先生方と一緒に、もう一度闘ってもええ思いますよ。
 すみません、僕はこれから高校の同級生の新年会がありますから。細かいことはまた後で、では」

  資料を抱えた弁護士たちは、風のように去っていった仙波の姿を
  口を開けて見守る。



□道後の旅館の広間

  すでに10人で宴会は始まっている。
  仙波が遅れて入っていく。

仙波「みんなあ、おめでとう。えらい遅れて悪るかったのう」

同級生「仙ちゃん遅いやないか、まあ飲めえ、何やっとったんぞ」

  仙波は無理矢理飲まされる。

仙波「……すまんすまん。たまたまオンブズえひめの先生とばったり会うてのう」

同級生「うるさい弁護士連中か。ひょっとして前から言うとった警察の裏金のことか」

仙波「ほうよ。息子のことで世話になった弁護士の先生に、裏金について記者会見してくれんかと頼まれたんやが」

同級生「すごいやないか」

同級生「やめとけや、そんなんは」

河野(話に割って入ってくる)「いやー、物騒な話しとりますねえ」

仙波「えーっと、あなたは誰でしたっけ?」

河野(名刺を出す)「いや、すみませんはじめまして。私、県会議員の河野と申します」

同級生「ああ、河野先生は他の高校の卒業生なんやけど、どうしても来たいというんでね。選挙運動よ」

河野(照れ笑いしながら)「以後お見知りおきを。それで仙波さん、裏金なんてのは、県庁にも、県議会にも、どこにでもあるんやから、ほんなんは表ざたにせん方がええですよ」

仙波「ええ僕も、やると決めたわけではないですけん」

河野「ほうよ。やめといた方がええわい」

同級生(酔っ払って)「そんなことないぞ仙ちゃん、やれ、やれーっ」

仙波(コップを持って立ち上がり)「じゃ、ぼくが記者会見をやったらいいと思う奴!」

  同級生たちの多くが「オーッ」と叫んで手を挙げる。
  河野は、仙波を無理矢理座らせる。

河野「仙波さん、あんたも人が悪い。冗談はそのくらいにしとき。がいにしといた方がええわい。ほうや、彼を知っとりますか。あんたと同期の東玲治さん」

  仙波と東、顔を見合わせる。

東「見たことない顔やなあ」

仙波「覚えがないなあ」

河野「東さんは全国紙の元記者でね、今は松山で雑誌を出しておられる。私もすごいお世話になっとるんよ。
 なあ東さん、仙波さんが警察の裏金のことをばらすと言うとるんだけど、そんなことやめたほうがええよねえ」

東「あんた、やるつもりなんやろ」

仙波「いやあ、やから、決めとらんって」

東「警察の裏金はいま全国で問題になっとる。しかし現職の警察官で内部告発をした人間はおらん。やったらあんたはヒーローだ。
 しかしなあ、警察の恐さはあんたが一番よう知っとるやろう。必ず報復されるし、仙波君の些細な弱みを攻撃してくるぞ」

河野「ほうよ、あんた裸にされるで」

東「やるんやったら、最後まで戦い抜く覚悟を決めてやるんやな。相手のプレッシャーに負けたら、君のほうがとどめを刺されるぞ」

  仙波は決意の眼差しでうなずく。
  河野は「どっこいしょ」と席を立ち、廊下で電話をかける。

河野「もしもし、警察委員会の河野やけど。総務室長の白石さんを頼むわ」

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この物語は事実に基づいていますが、一部の登場人物、警察幹部間のやりとりなどは創作しています。またいくつかのエピソードは場所を変えたり、実際より省略、時間を前後させて描いています。