仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

「正義の人」 シナリオ版「仙波敏郎物語」 

●喪失





□1年後、八重子の病室

  仙波が八重子の見舞いに来ている。

仙波「今日はずいぶん調子がええみたいやね。これから王仁の面会に行って来るよ」

  仙波、立ち上がり帰ろうとする。

八重子「あなた、ちょっと待ってくれん」

仙波「ん、どしたん」

八重子「あなたお願い、キスしてくれん?」

仙波「(照れて)なん言うとん。早よう病気を治して一緒に王仁に面会に行こう」

八重子「あなた、お願い」

仙波(テレながら)「仕方ないなあ」

  仙波は八重子にキスする。

八重子「(気持ちを込めて)あなた、いままでありがとう。王仁のことをよろしくね……」

  八重子はそのまま静かに息を引き取ってしまう。仙波は慟哭する。



□松山市内の寺

  八重子の葬儀が行われている。警察官の姿はない。
  ただひとりだけ、同期の菅が焼香に訪れた。

菅(仙波に頭を下げる)「この度は、まことにご愁傷さまです。それにしても警察の人間がまったく来とらんな。白石ですら来とらん……」

仙波「お前だけよ、来てくれたんは。ありがとう。ぜひ焼香して行ってやってくれ。八重子はなあ、王仁が逮捕された後、一度も王仁の顔を見ずに死んでいったよ。あの子のことを信じて……」

  菅も涙を流しながら八重子の遺影に手を合わせる。



□仙波の夢

  死んだ八重子と収監されているはずの王仁が、
  仙波に向かって一緒にニッコリ微笑んでいる。



□仙波の家 朝

  仙波目を覚ます。

仙波「毎日決まって同じ夢を見る……。あれだけにぎやかだった家なのに、今では独りぼっちか。友達もなし。
 30年間、一巡査部長。僕はいったい今まで何をやってきたんやろか……」



□松山駅頭

  仙波が駅前に止めてある自転車の防犯登録を一台ずつ調べている。
  そこに老人がやってくる。

老人「あんたが仙波さんじゃろうかのう」

仙波「そうですが」

老人「ああ、ありがとう。わしが孫の誕生日に買ってやった自転車が盗まれてしもてのう。
 わしゃすっかりあきらめとって、被害届も出さなんだんじゃが。ほうしたらあなたがカギが壊されとる自転車を見つけて、防犯登録の記録からうちの嫁に電話してくれたんよ。
 自転車が戻ってきたら孫が喜んでのう、その顔を見たらうれしゅうなって。一言あんたにお礼を言お思てきたんですが」

仙波「ほうですか、大切に乗るようにお孫さんに伝えてください」

老人「はい、伝えます。本当にありがとうございました」

仙波(独白)「やっぱり警察官いうんは、ええ仕事やなあ。元気になれる仕事やなあ。
 それでもこの仕事を選んでよかった。僕は生まれ変わっても、また警察官になるぞ」

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この物語は事実に基づいていますが、一部の登場人物、警察幹部間のやりとりなどは創作しています。またいくつかのエピソードは場所を変えたり、実際より省略、時間を前後させて描いています。