仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

「正義の人」 シナリオ版「仙波敏郎物語」 

●挫折





□警察署内

  仙波は警部補への昇任試験の面接を受けている。

面接官「君は、試験はようできとるねえ」

仙波「ありがとうございます。自分でもようできた思います」

面接官 (うつむいて書類を見ながら)「そうやねえ、でも、君は警部補にはなれんよ」

仙波「なぜですか、試験はようできとるんですよね」

面接官(うつむいたまま)「そうなんやけど、君、書いとらんよね、領収書。あれ、書かんと昇任できんのよ」

仙波「そんなあ、領収書の偽造は不正やないですか。罪を犯したもんが昇任して、まじめにやっとるもんが落ちるなんて、おかしくないですか?」

面接官(顔を上げて)「そうなんやけど、領収書書かんと、警部補にはなれんことになっとるけん。やから今回はあきらめてや。
 あっ、今から書いたら、来年の昇任には間に合うよ。じゃあ、行ってええから。ハイ、お疲れさん」

  面接官、面接書類を机の上で揃えて、椅子から立ち上がる。



□駐在所

  仙波は駐在所にとぼとぼ戻ってくる。
  長男を抱いた八重子が声をかける。

八重子「あなたお帰りなさい。(仙波の元気のない様子に気づいて)今日ね、王仁が玄関まで歩いたんよ」

  仙波は長男を抱き上げる。

仙波「ほうか、えらかったなあ王仁。早く父さんと相撲がとれるようになれえよ」

八重子(笑いながら)「なん言うとん、そんなんまだまだ先のことよねえ」

仙波(しばらく長男をあやした後、意を決したように)「なあ八重子」

八重子「なあに、あなた」

仙波「警察ではなあ、ニセ領収書を書かんと、警部補にはなれんのやそうや。僕はここまで一番の成績で走ってきたんやけど、罪を犯してまで偉くなりたいとは思わんのよ。どうしたもんやろか」

八重子「あなたは警察の仕事が嫌いになったん?」

仙波「そんなことないよ。弱い人を助けて、喜んでくれる顔を見られる仕事やけんね。僕の天職よ。生まれ変わっても、警察官になりたいけどね」

八重子「やったら、出世なんかせんでも、ここでみんなを助けてあげたらええやない。私はそういうあなたが好きよ。正義を貫くことと、警察のなかで仲良くやることと、どっちが大切なん?」

仙波「それはもちろん……。(八重子を見つめて)……よし、決めた! 警察官としての出世は今日、きっぱり捨てる。ほって、これからは正義を貫き通す警察官として生きることにしよわい。この子のためにもな……」

  2人は長男の寝顔に見入る。

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この物語は事実に基づいていますが、一部の登場人物、警察幹部間のやりとりなどは創作しています。またいくつかのエピソードは場所を変えたり、実際より省略、時間を前後させて描いています。