仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

仙波敏郎 愛媛県警巡査部長に聞く「裏金告発の行方」




正しい価値判断力を持つ.2


岡本呻也

 それからもう一つおもしろいのが、東さんは決して後輩を呼び捨てにしなかった。必ず君付けにするわけです。
 それは呼び捨てにするという行為が、上下関係を表すことになるからなんですね。産経新聞の本社に行ったときに、上司のいうことであればクロであっても白になるのだという筋の通らない話に嫌気がさしたんですね。産経新聞には、そうした親分子分関係が張り巡らされていて、多くのことがこの関係の中で決まっていたと東さんは述懐しています。

 それは同社に限らず、日本の組織ではたいてい、上下関係にとらわれて、普通の物の見方ができないわけです。「上の人間は偉い。下の奴は上の人間の言うことに従うべきだ」という理不尽がまかり通っています。「でもそれは違う、正しいことは正しいし、まちがっていることはまちがっているんだ」、こちらの考え方にに東さんは従っているわけです。
 そういう価値観がある。そうしたら産経新聞の社内では、東さんに対して、「後輩を呼び捨てにしろ」と社内圧力をかけたというんですね。バカじゃないのかと思いますけれど、それは大組織の中にぬくぬくと守られている彼らの秩序を押しつけようとしたということなんでしょう。しかし東さんとしてはそんなことに煩わされることはなく、彼は「まちがったことは、まちがっていると言える」わが道を進んだわけです。

 仙波さんが初めて東さんに会ったときに、ちょうど4年前のことですが、東さんの方が先に店に着いていて、仙波さんが「東か?」と呼びかけたら、東さんが「仙波君か」と言ったので、仙波さんは思わず、「コイツ君付けか・・・」と思ったそうですが、それは東さんの主義なんだと思うんです。

 それと同じように、産経の本社では、東さんにネクタイを着用させようとしたそうです。
みなさんご存じの通り、東さんは身なりにはとことん無頓着な人でした。仙波さんは伊達者なんですけどね(笑)。
 僕には、それはとってもよくわかります。僕もそういうところがあるのですが、人間は中身で勝負だと思ってるんですよ。別に、服が記事書くわけではないんです。服が県民のためになる記事を書くわけではない、服が仙波さんを支えるわけではないんですよ。

 そういうきちんとした立脚点から、物事を深く考えて正しい価値判断をする、理非曲直というものをつき詰める姿勢を東さんは持っていたと僕は思います。

 彼は記者クラブのあり方についても疑問を持っていました。記者クラブば当然のように役所の施設の一部分を借りて、光熱費や通信費、事務員の費用などを役所に負担させているわけですが、それと同時に役所の発表を独占するということもやっています。それが役所が都合の悪い情報を隠すための隠れ蓑にもなっている。これに対して東さんは、自分で雑誌をやっていたときに会見への出入りを求めて、
 公共施設が任意団体にすぎない記者クラブに占拠されている。記者室使用の差し止めをの仮処分を裁判所に申請する。
 と記者クラブに申し入れて、会見の出入りを獲得しています。
 しかしその後も役所におもねる記者クラブ側の横暴が続いたので、「本当に仮処分を申請しておけばよかった」と反省したようです。記者クラブという制度は、日本中すべてにまかり通っていますから、多くの人はこれに疑問を持たないわけですが、外国から見ればこれほど奇異な制度もありません。東さんはそうした問題意識を、実際に行動に移すところまでやる人だったわけです。それは、それが正しいことだからやるわけです。記者とはそのような正しさを求める気持ちと、強い信念を併せ持つ人でなければならないと思います。

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