仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

仙波敏郎 愛媛県警巡査部長に聞く「裏金告発の行方」

仙波裁判傍聴記.2
WINNY訴訟口頭弁論
あまりにもドラマチックな法廷劇

08年7月28日 松山地裁

岡本呻也  

■ノンキャリトップに登り詰めた仙波さんの同期が尋問でつるし上げられる。それを傍聴席から見ている仙波さん・・・あまりにもドラマチックな法廷劇だった。

 午後から開廷。今日の裁判でも、苦笑するしかない警察の恥ずかしい現状をじっくりと見せてもらった。
 この裁判は、私物のパソコンがウィルスに感染して6200人分の個人情報・捜査資料を流出させてしまった愛媛県警刑事一課の警部が、パソコンの中に捜査費関係の資料を入れていて、21名の捜査協力謝礼支払い対象者の実名が外部に流出した。その名前を使われた本人たちに確認したところ、一人も捜査費を受け取っていた者はいなかったので(裏金にしているのだから当然であるが)、仮名であるということが判明した。
 仮名の領収書をつくるということは、文書偽造ではないのかが問題となっている裁判であり、仙波さん弁護団と仙波さんを支える会が原告となって起こした住民訴訟である(細かい経緯はこちらのページへ)
 要するに、「捜査上の秘密」を理由に、数十億円もの捜査協力費を裏金にしている警察に鋭く斬り込もうとする闘いなのである。

実際の裏金の流れ 原告団席には、支える会の東さんを含めて9人(原告は総勢で17人)。被告・県、県警側は、指定代理人となっている県警の各部署の警察官と弁護士を合わせて14人。
 法廷内は、裁判員制度への対応のためか、大型ディスプレーが両側の壁に設置され、裁判官席がワイドになって、司法修習生の席のスペースがなくなっていた。
 尋問を受けるのは、主席監察官、松山東署長を経て、松山東署長、地元採用組の最高ポストである刑事部長まで上り詰めた二宮義晴である。二宮刑事部長は仙波敏郎さんの警察学校の同期であり、異例のスピード出世を遂げてきた。仙波さんは彼の尋問を、傍聴席で静かに聞いていた。このシチュエーションだけでもあまりにもドラマチックだ。
 
 まず初めに、県側の指定代理人が尋問を行った。彼が引き出した証言の主なものは、
 流出した資料は、正式な報告書ではない。県警はこれまで、捜査協力者とされた人の名前を仮名として会計処理していたが、実際の捜査協力者は別にいる。平成13、14年度当時は、そのような仮名使用が許されていた。また、捜査費の執行(=捜査協力者への謝礼の支払い)状況を会計監査に説明する場合を想定し、その説明のため、各捜査員にメモをつくれと指示していたと主張してきた。
 二宮自身も、捜査費の執行時に、誰の名前を仮名として使用し、その時の実際の協力者は誰かについてのメモを作っていて、それには事件名、金額、協力者の名前と使われた仮名の一覧を個人メモしていた。しかし会計監査は翌年行われるので、このメモは2年後に処分した(これは2時間後の証言では3-4年残していたと変化し、ますます疑わしさがアップした)。
 資料を流出させた警部については、資料流出当時に県警本部刑事一課長であった二宮は、捜査費を決済する立場にあり、課長として常に捜査員の仕事を把握し、協力者については実名で検討し執行を決定していた。
 捜査協力者から「領収書に書くのは仮名にしたい」との依頼があった時、仮名を書いた領収証を容認して受け取っていた。支払い報告書が上がってきたときに名前が違っていたので、「これは仮名だな」いうことは、刑事課長としてきちんと把握していた。当時の支払先を明らかにするのは「捜査上の秘密」に当たるのでできない。
愛媛県警の主張
 本人がそんなメモを作っているとは到底信じられず(物証もない)、ここで明らかにウソをついていることがわかる。

 そのあと、攻守ところを変え、原告側の代理人(仙波弁護団の弁護士)が尋問に立った。
 
 翌月の一般捜査費を会計課に申請するときに、どのくらいの金額を申請するかという見込み額は二宮が決めるわけであるが、「実際に使う捜査費は、二宮の見込みと100%食い違いがないのか」という代理人の質問に対し、二宮は「執行額がイコールです」とあり得ないこと答えていた。さすがにおかしいと思ったのか、「要求額をもらって、残ることもあります」と答えを修正したが、代理人はそれにかぶせて「では、もしも食い違いが出た場合に清算するために、要求額を出し直し、そこに二宮自身が要求額を受け取ったという領収書を添付する必要があるのではないか」という質問に対しては、「実際の執行額をなおさずに、差し引いた金額を処理していた」というので、代理人が「ずっと余っていったらどうするのか」と畳み込むと、二宮刑事部長は「その場合は年度末に返納しました」と答える。「その時二宮から会計課への領収書はどうしたのか」と聞くと、「わかりません」とあいまいな答えになった。
 代理人はさらに差額をチェックする清算の様式について質問したが、刑事部長は「ちょっと覚えていません」。
 この辺のチェックはまったく行われていなかったことがわかる。そもそも捜査費を裏金にしてしまえば終わりなので、そんな後処理をしているはずがないのだ。
 
 捜査協力者からの領収書は、仮名、実名を問わず県の会計課には提出している。しかしこの問題が起こって県の監査が入ったときに、監査委員には領収書を開示せず、マスキング済みの領収書のみしか開示しなかったという事実がある。
 そこで代理人は、「なぜ実名で堂々と領収書を書いている人の名前を隠さなければならないのか」と聞くと、刑事部長は「協力者の保護のため」と答えるので、「本人が保護の必要がないと言ってるのに、マスキングするのは、警察がマスキングをやりたいからではないのか」と聞くと、「それはありません」との答え。
 実際は、捜査協力謝礼など一人も払っていないので、本人確認されたらアウトになる。だから警察は監査委員には領収書を見せることができないのだ。
 次に代理人は、「キチンと協力者からの領収書が添付された支払清算書、あるいは領収書のない支払い報告書が捜査員から刑事一課長のところに来たときに、仮名になっているわけだが、もし本当に捜査費を執行したのであれば、これらの報告書に実名が書かれていなければ、混乱したり手落ちが起きるのではないか」と聞いたところ、刑事部長は「個人的なメモを作って、執行日、事件日、仮名であるか実名であるかを控えていた。私の方では把握できている」とあくまでも主張する。

  
 さらに代理人が「二宮刑事部長自身が、過去に仮名の領収証を捜査協力者から受け取ったことがあるか」と聞くと、刑事部長は「昔、仮名の領収証を自分で受け取ったことがあります」と答えた。これもウソだろう。傍聴席から失笑が漏れる。
 「ではどのようにして仮名にするのか」と代理人が聞くと、刑事部長は「どういう仮名にするかは、相手方に決めてもらいます。相手が仮名を思いつかない場合に、何かいい名前がないかと聞かれて、捜査員がアドバイスすることもあると聞いています」と答えた。
 この流出資料では、21名の名前が捜査協力者として流出したが、実際に確認をしてみると所在が分からなかったのは4人だけで、残りのうちの4人は菓子折などをもって行った先。それとは別に13人に17万円と3000円の商品券が執行されている(が、「警察から謝礼を受け取った」という人はゼロ。そりゃそうだ、裏金になってるんだから)。
 代理人は「捜査の実際の協力者が領収書を作成、発行するとき、たまたま選んだ仮名の人が警察の聞き込みを受けた実在の協力者だったのは、なぜですか。これは県警側が選んだ仮名なのではないですか」と突っ込んだ。代理人は、「刑事課長としてすべての捜査状況を把握しているとあなたは言っているのだから、こうしたことが起こらないようにできるはずだったのではないか」と質問したが、これに対して刑事部長は「会計監査に対応するための協力者については個人がメモをつくって管理していた。資料を流出させた捜査員本人が、実在の協力者の名前を仮名として教えたのだと思う」と逃げている。

愛媛県警の主張

 県の監査委員会には流出させた捜査資料が提示されたわけだが、代理人が、「県民はどうすれば本当にこの13名に対して予算が執行されたか確認できるのですか」と問うたのに対して、刑事部長は「私は当時捜査費の執行を確認し、ちゃんと説明しました」「では流出した情報は真実なのか」という代理人の質問に対しては、小さな声で「捜査上の秘密、協力者の保護のため答えられません」「じゃ、本当に13人は存在するの?」「お答えできません」 
 これは二宮刑事部長が「自分が責任を持ちます」と言っているのと同じだが、自分に矛先が向くと逃げてしまうのだから不思議である。
 
 代理人は、監査委員会について「13名の一件一件について監査委員から質問を受けたか?」と突っ込んだが、刑事部長は「いえ、自分の経験に基づいて答えたし、聞かれませんでした」との答え。代理人はさらに「支払清算書だったか支払報告書だったか聞かれたか」と尋ねると、刑事部長は「答えられません。裁判では答えられない。協力者保護のため」というので、代理人は「そんなことでは、あなたが犯人を捕まえても、法廷で証言を拒否されたら有罪にできないでしょう。裁判に協力してもらえませんか。流出文書の中に、領収書が添付された支払清算書は一通でもありましたか」と説得性のある突っ込みをしたのだが、刑事部長は「覚えていません」と答えるのみ。
 代理人が、「刑事部長、あなたは陳述書の中で、全部自分が管理して、適正に処理していると言っている。でも質問しても何も答えない。どうしてあなたの証言を信じることができますか?」というと、刑事部長の答えは、「当時の捜査一課は40人体制ですから、何件あったかと聞かれても覚えていないというのが正直なところです」と心許ないところまで話が後退してしまった。じゃあ、把握できてないんじゃん。まあ現金をもらってしまえばそのまま裏金にするのだから、把握の必要などまったくないのだが。

 ここで話は一気に核心に迫った。
 代理人は「領収書を仮名にしているのは、私文書偽造ではないのか」。これに対して刑事部長は「あくまでも協力者の意思である」と、実際には存在しない捜査協力者に責任を押しつけようとする。
 「支払い報告書は警察が作るわけでしょう。しかも仮名で。それは仮名だと報告書に書いてあるのですか」と代理人が尋ねると「いえ」との答え。すると代理人は「それは虚偽公文書作成じゃないの?」と畳みかける。
 刑事部長は「あくまでも協力者保護の観点からであって、不当な目的ではない」と答えたのだが、代理人は「文書偽造の成立要件は、行使をする目的があればいいわけであって、清算手続きが目的としてあるわけだから、文書偽造が成り立っていますね」と言い放った。これに対して刑事部長は「それは個々具体的な判断が必要ではないでしょうか」と食い下がったが、代理人は「今の答弁は情けなくはないですか?」と傍聴席に訴えかけた。
 このやりとりは非常に重要で、刑事部長は仮名による支払い報告書の作成は文書偽造罪に当たることを自ら認めたことになる。したがって現職の刑事部長として告発される可能性すら引き受けたということになるだろう。

 さらに刑事部長は、領収書の添付された支払清算書より、支払い報告書の方が多かった。圧倒的に仮名の方が多かったと認めている。
 またほぼ事前の見込み通りに捜査協力謝礼が執行されていることについて、「協力者が謝礼を受け取らなかったことは経験的にない」と答えている。まったく不自然なことだ。私なら捜査への協力は市民の義務であり、警察から謝礼が欲しいとは思わない。
 
 さらに代理人が交替し、「あなた自身が作っていたメモには捜査協力者の実名と仮名をチェックするために書いていたのに、捜査員が自分のためのメモとして作成した流出文書には実名が載っていなくて仮名のみが残っているのはおかしくないか」と実にもっともな質問をしたが、刑事部長は「なぜそうなのかはわかりません。メモの作成について、様式は示していません。捜査員に任せていました」と答える。
 「では任せているのなら、なぜあなたもメモを作る必要があるのか」と聞くと、刑事部長は「捜査は生き物ですから」ともっともらしいことを言うが、代理人は「だってメモを作るのは捜査のためじゃなくて会計監査のためでしょう。実際と違うと指摘されたときのために作っていたのではないですか?」と突っ込まれると「ハイ」と素直に答えた。
 そこで代理人は「監査委員が帳簿を見たときに、あなたは"Aさんに払ったとあるが、実はBさんに払いました"と説明するんですか」と聞くと刑事部長は「ハイ」との返事。そこで代理人は「それはなぜですか。会計監査の人はなぜその名前がおかしいと思うんですか。仮名と書いているわけでなし。県警の側からこれは仮名ですよと言う必要もないし、まったくおかしくないですか」と畳み込む。刑事部長のとんちんかんな返事で、おかしなやりとりが繰り広げられた。
 
 捜査資料を流出させた警部は、流出文書には実名を書かずに、備忘録を作ってそちらに仮名と実名の対照表を作っていたと説明している。この備忘録をあなたは見たかという質問に対して、刑事部長は見ていないと答えた。代理人は「きちんとした調査をするのであれば、県警が備忘録を保管するべきではないのか」と尋ねたが、刑事部長は「私は見ていませんけれど、備忘録はありました」と子供のような答え方をしている。客観的な証拠は、県警が存在を主張している備忘録しかない。しかしその証拠がないのだから、本当に13名の捜査協力者に支払いが行われたという証拠はないのである。
 また監査委員に対して開示する資料のマスキングをだれが指示したのかとの代理人の質問について、刑事部長は「わからない」と答えた。
 捜査資料を流出させた本人の当時の上司であり決済担当者であり、現在の刑事部門のトップであり、かつては、まさに不正に目を光らせる監査官室のトップだった人間でも、だれが指示したかわからないまま監査に必要な資料が県民に対して見えなくなっているというのは実に不思議なことである。つーか、「警察にはガバナンスがない」と威張っているようなものだ。
 
実際の裏金の流れ

 最後に代理人が交替し、捜査協力者についての質問が行われた。
 「あなた自身は捜査協力者を管理したことはありますか」との質問に対して刑事部長は「いろいろあります。信頼関係によって協力者と繋がっていました」。
 「あなたは捜査協力費を執行したことは」との問いに対しては「あります」。
 仮名による領収書を受け取ったことは」と聞かれると「あります。詳しくは覚えてませんが」と答えたので代理人は「実際には捜査協力謝礼を支払ったことはないのでは?」と尋ねたが、刑事部長は重ねて「あります」と答えた。
 これらはすべて真っ赤なウソであると考えられる。実際には捜査協力謝礼を払ったことなどないにもかかわらず、県警の刑事部門のトップが堂々と公開の法廷の場でウソをつき通している瞬間である。
 裏金を作るシステムを温存するため、正義心が完全にマヒしてしまっているのだ。二宮は立派な家を新築し、特注の家具を作ったことを、写真付きで警察内部の広報誌に自慢げに紹介していたという。その金は一体どこから出てきたのか・・・。
 
 傍聴席は失笑を通り越して白けた空気が流れていたが、裁判長が閉廷を宣言し、刑事部長は疲れ切ってよろよろと証言席から立ち上がった。すぐに県警の指定代理人の一人がミネラルウォーターのペットボトルを刑事部長に手渡し、先導して傍聴席の後ろの扉をうやうやしく開けて、刑事部長を退出させた。この一連の流れが、傍聴人席に座った人たちの目から見て、ますます県警の無反省を印象づけた。
 愛媛県警は、「捜査上の秘密、協力者の保護」を盾にして、捜査協力謝礼を裏金にしていた事実を隠し通せると考えているのかもしれないが、証言の中から出てくるどうしても覆い隠せない矛盾、食い違いが、実際に払っていないものを払っていると言い通すことの難しさを語っている。
 
 それでもウソをつき通さなければならないのは、県警が警察庁に支配されており、この問題をどうしても収束させなければならない立場にあるからだ。
 二宮刑事部長は、ノンキャリとして位人臣を極めた。裏金もたっぷりもらい、家も建てた。そして今日この法廷においてつるし上げられた。一方警察学校の同期である仙波さんは、裏金づくりに協力せず、裏金をもらわず、そのために出世の道を絶たれ、35年間も巡査部長の地位に置かれている。どちらが悔いのない人生なのだろうか。私には明らかであるように思うのだが。
 仙波さんは閉廷後、「あんな目には遭うくらいなら、ぼくは出世なんかしたくないな」と語っていた。

 
 ところで休憩時間に面白いことがあった。
 今回はいつもと違って野次が少なくて、刑事部長を野次り倒したのは、私ともう一人だけだった(東京からわざわざ出かけてきて、ヤジのひとつもかけてやらなければ失礼というものである)。そのもうひとりの人が、休憩時間中に公安部警察の勤務経験があり、監察官として指定代理人もつとめる男から「あんたの名前は?」と誰何されたのだそうだ。その人は怒って「まずお前が名乗れ」と言ったら、「自分は裁判所に名前を提出しているから名乗る必要がない」と答えたというのだ。
 報告して点数を上げるためにやらかした無礼な振る舞いなのだろうが、ここにも県警の体質がよく表れている。まず「自分たちは間違っている」とまだ自覚していない。さらに「自分は危ない橋を渡らず、おいしい思いができる。県警に敵対する人間はすべて敵である」との強い信念がある。こんな警察を税金で養っている納税者が怒って立ち上がらない方がおかしいだろう。
 やはりこれまで漏れ聞こえてきていた県警の横暴ぶりは、事実だったのだろうとの印象を強くした。

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