仙波敏郎愛媛県警巡査部長に聞く「警察裏金告発の行方」

仙波敏郎 愛媛県警巡査部長に聞く「裏金告発の行方」

仙波裁判傍聴記 
警乗手当訴訟口頭弁論
これは一見の価値のある見せ物だ

警乗手当訴訟口頭弁論

2008年3月4日  松山地裁


岡本呻也

 鉄道警察隊員だった仙波敏郎さんが平成11,12年度に、県外への警乗を行った手当8回分が支払われていないとして、支払を求めて県を訴えた裁判。県警は「警乗を年間300回弱行った」として、国費50万円を請求したが、仙波さんはまったく受け取っていない。
 仙波さんの狙いは、裁判の過程を通して、「警乗300回は不可能であり、県警が国費をネコババしたこと」を証明することにある。(詳しい経緯はこちらのページへ)。
 尋問される証人は当時の鉄道警察隊長2人であり、現在はいずれも警察署長である

【被告愛媛県の主張】 この訴訟は単なる仙波さん個人の労働債権問題である。仙波さんが警乗した事実も知らないし、上司が警乗を指示した事実もなく、したがって支払いの義務もない。

【原告団の主張】 仙波さんが個人的に警乗したものの、そのことを鉄警の活動日誌には記載してきている。他の隊員は一部例外を除き警乗勤務をしていない。  にもかかわらず隊員数最少のこの時期に近年でもっとも多い警乗がなされたことになっており、事実に基づかない警乗実績が国に報告され、隊員には支払われないで、すべて裏金にされた。仙波さんへの未払いはその中で起きたものだ。

 まず驚いたのは、JR四国の職員数名が制服姿で傍聴席に座っていたこと。
 被告である愛媛県は、「仙波さんはやる気がなかったので一度も警乗をせず、その他の3名(うち1名は大病で日勤のみ)の鉄道警察隊員が警乗を年間300回弱行い、その手当として平成11年に50万円弱を国に請求した」と主張しているが、もし実際に年間300回の警乗が行われていれば、一番助かるのはJRであり、もっと車内は安全になっているはずである。しかし実際は仙波さん以外の職員はほぼ警乗していない。JRは県警の裏金づくりのだしに使われただけなのである。そのことに抗議の意を示すために、職員有志が制服姿で傍聴に訪れていたのだ。

 原告側席は原告の仙波さんと、15名の弁護士が座っている。被告の愛媛県側は、3名の弁護士と10名の指定代理人が座っている。この指定代理人というのは、愛媛県警の各部署の代表者で、警部クラスの人間のようだ。この裁判の被告は愛媛県なのだが、愛媛県からはだれひとり出席していないという異常な裁判だ。
 主尋問では、この指定代理人のひとりが証人に対して尋問を行い、自分たちに有利な証拠を引き出していく。丸一日かかる裁判の間、愛媛県側の弁護士は一言も発言しない。なぜなら、彼らは裏金の実態や事実関係について何ひとつ知らされていないので、口の開きようがないからだ。つまり弁護士が出席しているというエクスキューズのためだけに黙って席を温め続けていてくれる人を人選しているのである。そのために愛媛県民は、数百万円の税金を費消しているのだ。
 愛媛県側の指定代理人は、各部署への報告のためであろう、尋問の間ずっと机に顔を伏せていて黙々とペンを走らせている。傍聴席のほうを全く見ようとはしない。一方、仙波弁護団のほうは表情も発言も豊かだ。

 愛媛県側の主尋問では、鉄道警察隊の元隊長に対して尋問を行い、仙波さんが主張する8回の警乗(平成11,12年度)は、「仙波が勝手にやったことであり県警は関知していないので、そもそも警乗手当てを払う必要がない」という答えを引き出して終了した。

 一方、仙波弁護団は、そもそも鉄警隊員による年間300回の警乗は不可能であったことを証明しようという作戦だ。
 反対尋問に立った仙波弁護団の主任弁護士は、腰に手を回したり、頭に両手をやったり、時々書類を振り回したりして、表情のついた身ぶり手ぶりで思い出し思い出ししながら質問をしていく。感情的になると方言が出るが、これも計算されていて見事な尋問ぶりである。この弁護士は「コロンボ弁護士」との異名をとっていると聞かされて納得する。

  元鉄道警察隊長に対して、本当は作成していなかったはずの警乗計画がさもあるように証言していたので、彼はさまざまな角度から矛盾を突いて計画の存在自体を崩していく。話が具体的になればなるほど、元鉄道警察隊長の証言は「わかりません」「覚えてません」という答えが多くなり、あいまいになっていく。
 元鉄道警察隊長は「実際何人の隊員が警乗にあたったかについては、公共安全情報であり、隊員個人のプライバシーが明らかになるような証言はできない」として徹底的に証言を拒んだ。裁判長は弁護側の主張を受け入れて、人数を明らかにするように命令したが、それすらも拒もうとする。この時点で、証人が愛媛県側と組んで、ウソをつき通そうとしている(=仙波さんの警乗を否定し、実際は国庫へ請求した警乗手当をすべて裏金化した)ことがだれの目にも明らかだ。

 弁護士が誘導的な質問をしようとすると、指定代理人が、「ただいまの質問は誘導尋問です」と裁判長に異議を唱えるが、仙波弁護団側からは大笑いが起こり、「ところが反対尋問では誘導ができるんだよなぁ。不思議だなぁ~」との声が。愛媛県側の指定代理人は弁護士でもなんでもないので、そんな簡単な裁判のルールすら知らずに出てきているのである。
 裁判の進行についてぶつかると、愛媛県側の主張は仙波弁護団の弁護士たちに赤子の手をひねるように木っ端微塵に粉砕されてしまう。そのたびに傍聴席からは失笑が起こる。お役目とは言え、よくもまあ恥ずかしげもなく、まじめな顔で被告席に座っていられるものだと感心する。

 尋問の中では、仙波さんがいかに部下として扱いにくい存在であり、また息子さんの裁判や奥さんが亡くなったことで神経質になっており精神的に不安定であったなど、個人のプライバシーについて必要以上に暴き立てる証言が続いた。その一方反対尋問で、隊員の誰がどのくらいの頻度で警乗勤務に就いたかについては、元隊長はプライバシーに関わること」として頑として証言を拒否する。
 業務の実態や、シフト表も作らずにだれにどのように警乗勤務を割り当てたかなどについては、途端に記憶があいまいになって「わかりません」、「覚えていません」の連続になる。
 また仙波さんがJR職員と口論になったという自分の証言についても、弁護士が「それは仙波さんが酔っぱらいのJR職員を注意したからであって、後で職員の上司が謝罪に来たという話を聞いていませんか?」と訊いても「覚えていません」と、仙波さんにとって有利なことはすべて忘れている始末。弁護士から「あなたはずいぶん不確かな記憶で証言してるんですね」と言われて、さらに傍聴席から失笑が漏れた。
 仙波さんは最後に本人尋問で、「あなたは宣誓の上での証言として、300回の警乗がほんとにあったと証言できますか?」と証人に尋ねたが、証人は「ハイ」とだけ答えた。「もし事実でなければ、あなたは偽証してるんですよ」と言われて、警察署長がそれを認めたすごい瞬間だ!

 午後もう1人、元鉄道警察隊員隊長が証言台に立ったが、指定代理人はやはり仙波さんの家族についての質問を執拗に続け、傍聴席からは「恥ずかしくないのか!」との大きなヤジが飛んだ。この元隊長は「自分も警乗した経験がある」と証言していたので、原告側弁護士から「あなたは何回警乗したのですか?」と質問を受けた。彼は「それは公共安全情報ですから言えません」を延々と繰り返し、傍聴席からの失笑を浴び続けることになる。
 これは裏話だが、実は彼は自分が隊長に就任した時と、隊長を辞めるときの2回、他県の鉄警隊長にあいさつに行ったことを称して「自分も警乗をしたことがある」と言っているにすぎない。だから回数を言ってしまうと、他の仙波さんを除く2人の隊員が100回以上の警乗を行ったことにしなければつじつまが合わなくなってしまう。
 そこで「公共安全情報である」として証言を必死で拒むのだが、裁判長から「言いなさい」と命令されてしまう。これに対する彼の答えは、「結構な回数乗ってるはずです」「かなりの数です」「覚えていません」「概略でも分かりません」という、まことに警察署長としては頼りのない答えになってしまう。そのたびに傍聴席からは失笑が漏れ続けた。

 今回の口頭弁論はこの2人の証言の、「わかりません」「覚えていません」を何回聞いたかわからないほど聞いて終了した。
 50も半ばを過ぎた人間が(しかも警察署長!)、宣誓をしたうえで、これだけ長時間ウソをつき通す姿を見られるというのは、私にとってはあまりにも新鮮な経験だった。裁判の調書を読んでいると「よくもまあこんなウソがつけるな」と胸糞悪くなるだけだが、実際に生身の人間が、わかっていてウソをつく姿というのは、なかなか見られるものではない。そういう意味ではこの裁判は、一見の価値のある見せ物だと言うことができるだろう。

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