自分の使命とは何だったのか

桜内ふみき 氏  


運営者 「アンタッチャブル」に戻るとですね、「人間にとって使命感とは大切なものだ」ということを描いていたと思うんです。ハリウッド映画って単純ですからね。

桜内  何のためにこの仕事をやっているのかを自覚するというのは、根源的なことですよね。

運営者 各人、何のためにその会社に入ったのかということを思い起こせというのは、今さら無理なことなんでしょうか。

桜内  難しいでしょうねぇ。

自分の使命とは何だったのか運営者 あの日に戻ることはできないものでしょうかね。思い出すこともありますよ。プレジデント社に内定をもらったのが午前中で、その後渋谷に映画を見に行ったんです。「ホテル・ニューハンプシャー」という映画でした。そんな感じで、昔のことって覚えてるじゃないですか。自分の環境が変わるときの、イキイキとして新鮮な感覚は。

 アンジェイ・ワイダが監督した「ダントン」という映画があるんです。その最後のシーンで、ロペスピエールがダントンをギロチンにかける命令書を書いた後で、同じ家の中で家政婦が子供に行水を使わせているんですね。お湯をかけけながら、子供にフランス人権宣言を暗唱させるんです。

 それを聞きながら、ロペスピエールは自分がやっている恐怖政治と、フランス人権宣言の文句の矛盾に気がついて慄然とするというのがラストシーンなんです。「そもそもは自分は人権宣言の理念を実現しようと思って革命に身を投じたのに、気がついてみると恐怖政治の首魁になっていた」、その事実を子供に教わるという皮肉なんですね。人間は、初心からは全然離れたところに来てしまうものなのでしょうか。
 自分の使命とは何だったのかを、みんな思い返すべきではないでしょうか。ふつうの人は仕事を通した私益の追求ですよね。だったらマジメに私益を追求してほしい。
 銀行に入社するときに、あるいは大蔵省に入るときに、自分は一体何をしようと考えていたでしょうかね。まさか「客をないがしろにして出世のために翻身しよう」なんて思っていた人は、いないことはないでしょうが、大多数だとは私には思えないんです。人々から搾取しようと思って、あるいは貸し渋りをしたいと思って銀行に入った人はいないでしょうにね。



 (この項終わり)

このインタビューから11年後のインタビュー

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