健全な対抗勢力があればこそ、大胆な改革ができる

中林美恵子氏


 運営者 ジャーナリストというのは、「社会に対する窓」ですから、彼らに発言するということは社会に対して発言するということなんです。

 中林  そうですね。ですから政治家の肝心な発言をきちんと伝えてくれる人がいるかどうかも大事です。アメリカにはそれなりにそういう人がいます。ジャーナリストでありながらある程度リスクを取ってくれる人も。そして彼らは日本ほどローテーションせず、記者はずっと記者なので、いつでも連絡が取りやすいんです。
 それからアメリカの政治家は、「新聞にはリベラルな新聞も、コンサバティブな新聞もある」と心得ていますから、自分の理念によって戦略的に選択することが可能です。政治家だってマスコミを一方的に信用しているということでは全くないですよ。

 運営者 もうひとつはバイラインの問題があって、日本だと署名が入っていないから、だれにリークをすればよいのかわからないわけですよ。

 中林  ほんとうですね。理解のあるジャーナリストに対しててあれば、信頼してリークしても良いかと思いますものね。日本では一人で記事にする責任を負わないせいか、誰にリークしていいか分かりませんね。
 ただ議員側も研究していますよ。専門のプレス・セクレタリー(報道官)とアシスタントが委員会自体にも、政治家の個人事務所にもついて、マスコミが興味を持つようなテーマや言い回しについて研究し常に何か情報を流しています。

 運営者 委員会にもプレス・セクレタリーがついてるんですか。つまり委員会はある主体として発表を行うわけなんですね。

 中林  もちろんです。公聴会から、法案のたたき台作りから、今何をやっているか、委員長が何を述べたかまで、マスコミが使いやすいようにまとめて戦略的に情報提供します。報道官はしかも、それぞれの委員会に1人だけではなくて、共和党側、民主党側に1人ずつ以上が付いています。一つの委員会にプレス・オフィスが最低でも2つは存在し競争しているという事です。

 どうしてそこまでするのかというと、国民に対して政策や立法過程を伝え理念を訴えかけることが重要で、マスコミを通してそれができるからです。国民にどういうふうに理解してもらうかを議会の人間は常に考えます。次の選挙が大事ですから。マスコミという媒体がなければ、例えばいくら財政均衡の説明をしたとしても、国民が理解してくれなかっただろうと思いますね。プレス・セクレタリーをつけてまでして、委員会は立法作業を主体性をもって行っています。

 運営者 そう考えると、日本の国会の委員会は主体ではなくサブシステムということができるでしょうね。では主体である国会がスポークスマンを持っているかというと、それはないわけです。
 そうか、アメリカでは議会自体も重要なんでしょうが、委員会の地位が非常に高くて、独立したプレーヤーとみなされているということなんですね。活動の実態であるということでしょう。

 中林  本会議も非常に重要な場ではありますが、スタッフレベルで法律のたたき台を作る場としては、委員会が非常に重要であるという言い方ができると思います。委員長の責任は重大であり権限も大きいです。
 さらに野党つまりマイノリティーになってしまっても、委員会に常に自分の党が存在しマジョリティーに対する競争勢力として機能します。更に委員会スタッフも少数派ながらいるので、マジョリティーの法案作成に意義を唱えまたは同意しながら、常に次期選挙後の体制のウォームアップができるわけです。

 安住を希望する公務員や政治家には嬉しくない話しかもしれませんが、いつも互角の競争相手があって主導権が移動できる体制というのは、国民にとっては嬉しい話です。
 仮に改革が一つ失敗する兆しになっても、対抗勢力が健在で直ちに舵取りを代われるなら国家は安定したまま方向修正ができます。そうすると結果を保証できない改革案であっても、勇気をもって試せます。こうした国では小さな実験を積み重ねつつ、民主主義というものが確実に成長・成熟できるのだと思います。



 (この項終わり)

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