「言論の戦争」を経た政治的妥協は「必然」である

中林美恵子氏


 運営者 ところでアメリカ人は選挙民として、「自分が不利益を被っても、長期的にみれば財政均衡させた方が得だ」と考える力を持っていたんでしょうかね。

 中林  そう考えるに至る要因が彼らにはそれぞれの生活を通してあったということです。そういう意味で考える力も必要性もありました。
 特に財政赤字による金利の上昇は車や家のローンを抱えている大方の国民の生活パターンに直接影響を与えました。個人個人が毎年自分でする納税申告だって、自分の頭で計算するから、税金の支払いと財源の行方に自然に敏感になります。心ある政治家たちも10年、20年とかけて財政均衡論を蓄積していました。大統領選挙でもそれが候補者たちの選挙公約になったくらいです。

 運営者 なるほどねえ。日本のマスコミは「財政支出を削減しろ」といいますよ。だけど何かが起こったら、すぐ役所の責任にして、「人員を増やせ」とか、「新しい機構をつくれ」とかいうので、結局役所は焼け太りになって役人の思う壺になるんですよ。

 中林  日本のマスコミは本当に矛盾していますよね。自分の言葉の意味をきちんと理解していなくて、無責任に報道しているだけではないでしょうか。政府に何かを求め政府機能を増やせば、大きい政府になって財政赤字が膨らむくらい分かっているでしょうに。
 政府組織というのは民間に比べ、非効率で余計にお金がかかるものです。役人にとってみれば税金はしょせん他人の金ですから、人員や権限は増やしたくても必死に節約するDNAは持ちえません。

 運営者 例えばアメリカで狂牛病が発見されたら、日本みたいに農水省の責任を追及して、すぐに「新しくもっと強力な監督権限を持った役所を作れ」という話になりますかね。

 中林  ありえますが、もし大きい政府を嗜好する民主党がそういう案を出したなら、共和党が大反対するでしょう。そして公聴会を開くことから始まり言論の戦争をするはずです。
 農業委員会だけではなくて、商務関係の委員会でも公聴会が開かれて議論となるでしょう。どこから飼料が来たかということを考えると、輸入制限が必要になるかもしれません、そうすると財政委員会の中にある国際貿易小委員会でも取り上げられるでしょう。環境委員会も名乗りをあげるでしょう。それを上院だけではなく、下院でもやるわけです。
 数々の公聴会を開いて、民主党と共和党がカンカンガクガク議論するのは目に見えています。もし民主党が、「官庁の権限を強化しましょう、新しい政府機関を作りましょう」と言い出したら、共和党は「それでは問題の本質は解決できない」という論戦を張るでしょう。さらにはオリジナル法案に対する代替案などが法案としていくつも出てくるでしょう。

 運営者 その後、どうなります?

 中林  委員会が「どの法案を取り上げるか」を選んで、本会議に法案を出したとしますよね。
 いろいろな対案についても本会議できちんと議論されます。議員個人も本会議に法案を提出することができます。ただし委員会から提案されたものは、すでに委員会で議論されているものですから、院内総務もそれを本会議で土台として取り上げるでしょう。でも各議員は修正案として、委員会を通ってきた法案の土台を修正できます。

 また今、エンロン問題で実際に起こっていることですが、下院と上院で全然違う法案が出た場合は、それを両院協議会にかけて折衝を行い、いろいろな意見をその中に統合していこうとします。
 そのような形でいろいろ手が加えられて、最終的に本会議で決定されることになります。結局は政治的な力の駆け引きと妥協の産物が仕上がるのですが、それ以前のプロセスが大変長いので、政治的妥協も必然であるとの認識が成立します。
 またできあがった法律についても、その後自由に修正を加えることができます。

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