利子率上昇という国民の関心事が議員を動かした

中林美恵子氏


 運営者 日本の常識では考えられないことですね。未だに「景気対策」優先ですからね。どう考えても二兎を追うことはできないのに、選挙公約には一応歳出削減が掲げてある。

 中林  そして共和党はその公約を実行しようとしました。総論を各論にまで詰めて法案を作成しクリントン大統領に届けましたが拒否権を発動されました。年度末を過ぎていたのでトップ交渉の決着が付くまで、度重なる暫定予算で凌ぎましたが、95年末にはそれも拒否権にあって、ガバメント・ショットダウン(政府機能一部停止)まで起こったわけですね。

 共和党の財政均衡案は、民主党の巧みなマスコミ戦略によって、高齢者たちの医療保険であるメディケアというプログラムの予算増加率を僅かに緩やかにしようとした部分を、「メディケアの歳出カット策だ」という言い方をされ、次の選挙で多くの落選議員を出しました。共和党は実際は「急激な歳出の伸び率の部分だけ1%足らず減らしたかった」のであり、歳出自体は大きく増加していく案だったのですがね。国民は立法府では野党だった民主党に軍配を挙げました。共和党は議席を減らしました。
 でも当時の70人余りの志士らは、「自分たちは選挙に落ちてもいいから、正しいと思ったことをやり抜くんだ」と自分たちの意思を貫いた信念派が多かった。共和党にはそういう人たちが出てきて、選挙を戦って勝ったという時期がありました。

 とは言っても一方の民主党だって方法は違うものの、財政均衡を唱えました。クリントンも1992年の大統領選挙のときから公約の中に財政均衡を入れていたくらいです。
 1996年の選挙時には、すでに財政状態も以前よりは良くなっていましたから、財政均衡が何より大事な第一公約という訳ではありませんでしたが、「財政均衡が重要である」ということに変わりはありませんでした。
 つい最近までは、政府の財政は年金基金の黒字を含まないでも黒字となり始めていました。2000年から翌年9月にテロ事件が起こるまで、最大の議会の論争は、「年金基金の黒字に、どちらの政党が先に手を突っ込んでしまう政策を提案するか」という非難合戦だったんです。それくらい財政黒字の先行きが焦点となっていたわけです。
 つまりかなり長い間、財政均衡あるいは財政の健全化というものは、議員たちにとって大事な国民の関心事だったことが理解できます。そうした国民の関心が議員たちへの財政均衡へのインセンティブであったことは間違いがないでしょう。

 ではそれがなぜ焦点になりえたかというと、米国では財政赤字が利率をつり上げてしまうという国民の理解と結び付いたからでしょう。利率が上がると、自分たちの住宅ローンの毎月の支払いが増えるし、カードショッピングのローン支払いも負担が大きくなります。企業にしても銀行からお金を借りると利子が高くては楽ではありません。産業界でも財政赤字は非常にネガティブ・イメージで受けとめられていました。

 運営者 日本では幾ら国債を大盤振る舞いしても金利は上がらないんですけどね。

 中林  それが日本の大きな問題の一つです。国債が国民の貯蓄で十分支えられていますから、少なくとも今のところは。でも、将来は国債の金利がどうなるかは分かりませんよ。

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