アメリカでムネヲ問題が起こらない理由

中林美恵子氏


 中林  行政府に対して議員が働きかけるのでなく、立法権限を持った議員同士がそういう調整を行うのは、政党間に競争が成り立っているからです。行政府の長であるホワイトハウスを奪えなかった党でも、立法府では十分に法案作成の主導権や大きな影響力を行使できるのですから。
 というわけで力のバランスからして、行政府に対する議員の露骨な働きかけというのはアメリカでは殆どありません。
 一般にお願いに行くのは、行政府の方なんです。委員会の委員長、院内総務、党全体という個性の強い枠組みの中で責任の所在がはっきりしてしまっているので、次の選挙で大きなマイナスになるようなことは避けたいという作用が働きます。

 運営者 ということは、全員が「地元への利益誘導」という観点に立ちながらも、立法府の中であまりにも行き過ぎた部分最適化が起こらないように調整をしているということなんですね。

 中林  ある程度は調整しているということです。

 運営者 今のお話を伺っていると、ほとんど全体利益の観点からの調整が行われているように聞こえますが。

 中林  私が念頭に置いているのは、特に9・11が起こった後のホームランド・セキュリティーについての緊急財政出動があったときに、歳出委員長である民主党のロバート・バード上院議員が20ビリオンという巨額の地元利益誘導の法案を出した時の例なんです。
 彼の地元はウエストバージニアで、これはほんとに貧乏な何もない州です。そこに「航空会社のセキュリティー訓練施設をつくりましょう」などと、地元に半分近く予算がつくような馬鹿げた法案を出したことがありました。それは2001年の時点では潰れたんですけどね。民主党のトーマス・ダシュル院内総務も、「さすがにこれをやったらマスコミに叩かれて民主党の名折れだ」ということで党内でも逃げの一手で結局成立させませんでした。
 超有力議員のわがままでも、それがそのままの形で通るとは言えないという格好の例です。

 運営者 いいですねぇ。いまのお話しを伺っていると、アメリカでは選挙民と議員の間で、自分たちが出し合っているお金である税金の配分をどうするか決めることができるみたいじゃないですか。
 日本はそうではないんですよ、役所が間に入ってますからね。役所と与党で山分けで、国会は蚊帳の外です。与党と官僚の癒着以外のなんでもない。

 中林  ですから根本は、すくなくとも議会の野党にも立法ノウハウと影響力を残して競争勢力になってもらわねば駄目なのです。
 責任を取らなくてもいいという特権を与えられるべき行政府の人間が、立法をしてしまっているのは困ったことですね。優秀な行政府の皆さんにとってもいい迷惑だと思いますよ。「責任を取れ」と言われても、どうしていいか分からないではありませんか。

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