リストラされたGAO

中林美恵子氏


 運営者 この国には「無謬性」という建前がありましてね、一度作ったものに穴があってはならないことになっているんです。だから法律でもシステムでも、作った後から変えるのは一苦労ですよ。
 国会に関して言いますと、一番大きな問題は国会議員自身がですね、「現在の定められた制度に従って動いていればそれでいいんだ」と意識の上で自己規定しているからだと思うんですよ。
 立法上の必要を満たすために、自分たちが新しい仕事をつくるとか、ファンクションを獲得するとか、そういうことをするべきであるなどとはだれも考えていない。社会の現状に即して、国会が新たな機能を獲得しなければならないなどとは、思っていないんです。
 しかしまず、そう思わなければ変わりようがないですよね。

 選良である彼らが考えているのは、「この与えられた枠の中で、党内で順当に出世して行けば安泰だ。せめて大臣にはなれるだろう」ということですよ。
 すべて所与のものなんですよ、そこからはみ出ないのが、日本人の奥ゆかしさであると考えている。

 中林  でも、アメリカでも公務員になって同じ場所に長くいると、やっぱりそういう考え方をしますよ。人間、年齢が上がってくるとものすごく安定志向になりますし、失敗を犯さずにこのまま安泰でいきたいと思うのは当然です。
 だから例えば、日本では結構名前が知られてきたGAOなんかも、設立以来長い時間が経ったので人材がよどんできているんですね。国家公務員ですからベネフィットもいいし、「同じことをずっとやっていれば安泰」という立場じゃないですか。議会に付属する機関ですから委員会や議員にレポートを提出するのですが、安全志向なレポートばかりになる上、やる気のない職員が溜まってくる。

 運営者 それが問題視されたんですか?
 議員たちが、GAOという、「自分たちが国会で活動するために必要な情報を提供するべき議会の付属機関の仕事振りが悪くてレポートの質が下がり、自分たちの仕事に差し障りが出ている」という価値判断をしたということですね。

中林 一時は、きちんとした調査もせずに、「ここのところはわかりません」などというようなレポートばかり出してきたわけですね。「こんなレポートをもらっても役に立たないじゃないか」という議員の声が高まった時期がありました。
 議員たちにすれば、本来は自分たちが提出する法案に反映させたりする必要がありますし、特に当時の共和党議員は政府支出の削減を提唱していましたから、予算削減の根拠を集めるためにGAOのレポートも重要となるわけですが、その過程で「GAOのレポートは大して役に立たない」という事実が見えてきてしまったのです。そうすると、「この巨大な組織は一体何をしているんだ」という批判に発展しました。
 94年の選挙の中で、共和党議員たちを中心に「GAOに調査を頼んでも良いレポートが出ない」という不満の声が出て、5000人いたスタッフを3000人に減らしてしまいました。厳しい処置でした。

 その処置以前にGAOで働いていた友人の話を聞きましたが、職員は惰性で仕事をし、あとは上司におべっかを使って昇進しようとしたり、職場内政治が活発となって、よいレポートどころではなかったそうです。雇用の流動が停滞すると、人々は斬新な仕事をやろうとしないし、適度な競争もない状態になる。職員が非常に官僚的になってしまうのです。
 元GAO職員の友人は、「官僚的にならないためには人材がある程度流動せねばならない」と語っていました。彼自身はその後、上院の予算委員会の民主党側スタッフに転職してきました。議会の場合は選挙があれば人が入れ替わるので、多くの組織が官僚的に情報を握っておくことはできないし、自然に物事の風通しが良くなります。
 立法作業にしても事務所内政治の暇はなく、スタッフはいい仕事ができるのではないでしょうか。
 つまり、私の言いたいのは、アメリカであっても、雇用が流動しなければ官僚的になってしまう部分はいくらでもあるんです。それは人間の性というものではないでしょうか。だからアメリカ人の倫理観が高いとか、日本人のそれはだめだとか、そういう議論は成り立たないと思うんです。

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