ワシントンでの日本のプレゼンスはかなり低い

中林美恵子氏


 運営者 中林さんはアメリカ上院の予算委員会のスタッフ(補佐官)を務めて、この4月に帰国されたわけですが、経済産業研究所では何を研究されるおつもりですか。

 中林  上院の予算委員会というところは、政治の良い面も悪い面も見ることができる現場でした。予算=ガバニングですからね。外国人ではなかなか入れないところに、大学院を卒業してから10年近く身を置くことができましたから、それは非常に有難い経験だったと思います。それで、まずは、私の米国予算編成の知識と経験を生かして日米の財政を比較研究したいと思っています。

 運営者 どういう資格で永住権をお持ちだったんですか。

 中林  国務省が当時行っていたAA1プログラムというのがあって、その最初の年の1991年に応募して92年に永住権が手に入りました。抽選ではなかったころですね。 このグリーンカードがなかったら、幾ら特例だといっても、上院の委員会でパーマネント・スタッフつまり正規職員としての就職はありえませんでした。せいぜい1年間かそこらの無給に近いインターンとして訳も分からずスタッフたちに迷惑をかけるだけで終わっていたでしょう。議会スタッフは公務員ですし本来は市民権取得が必要です、国益にかかわる場ですので。

 私は日本を初めて離れた13年前から、いつかは日本に知識を持って帰るぞと、ずっと思っていました。現在こうして日本に帰れたのは、経済産業研究所という変わったシンクタンクが昨年にできたからという気もします。 ここでは個人個人の研究員が自分の獲得した知識を生かした研究を自由にできますし、身分も国家公務員ではありません。そういう場ですから、まずは自分が既に得てきたことをアウトプットしたいと考えています。

  アメリカという国は、日本人にとってよっぽど脳裏に焼き付いている国らしく、何かというとすぐに参照の対象になります。先日も、日本に帰ってきてからある税制研究会に出席する機会を得ましたが、ここでも御多聞に漏れずアメリカ税制が参照されていました。ただ驚いたのは、著名な大学の先生が発言をされていたにも関わらず、アメリカでの税法を立法する委員会の名前を間違えておられました。議会スタッフが税法を書く作業をするというご理解までは正解だったのですが、その先が残念でした。
  でも、そういうズレは日本ではよくあることなのでしょうね。ひょっとすると、自分の通そうとする論に便利なように米国という知識のつまみ食いをしているだけなのかも知れません。しかしもし間違った情報が日本人の間で独り歩きしてしまったら恐ろしいことだと思います。だから私は、もっと正確な情報を伝える努力が必要と思うんです。

  財政問題などを含め、そうしたアウトプットの作業と同時に、私は日本を勉強して、日米の財政政策システム、つまり予算制度を比較研究してみたいと長期的には思っています。政治制度が違うので難しい面はありますが、民主主義だからこその問題点は両国共通です。

 運営者 アメリカから見ていると、日本とアメリカとの人的なつながりというのはどのように見えますか。

 中林  日米関係を専門とするアメリカ人達はごく限られているので、日本人はそうした一握りの米側プレーヤーと接点を持つのが手一杯という感があります。そこで問題になるのは、特定のプレーヤーが対象なので、つい日本のプレゼンスがアメリカで大きいように感じてしまうのですが、それが生身のアメリカであると解釈するには飛躍が大きすぎてしまう訳です。非常に限られた枠の中に日米の人的なつながりを求めることによって、偏った情報が日米を行き来しています。
  私はたまたま、日本とは特につながりも関係もないアメリカの職場にいましたので、いわゆる米政治の中枢がどんな事柄に夢中になっているのか、毎日目の当たりにしておりました。貿易問題など日米関係に波風が立っていたときも、またジャパンパッシングなどと言われたころも、あれこれ見て過ごしましたが、全ての時期を通して感じたのは、日本人がアメリカを思うほどアメリカ人は日本を思っていない、そして、まして「ワシントンでは日本のプレゼンスが大変低い」ということです。
  日本の国益を考えるなら、ワシントンの中でも日米関係がビジネスだという特殊な人たちに限らず、もっと中枢にいる米国人たちとの関係の中で日本のプレゼンスを高めたり、研究成果を提供していったりするべきです。もっと欲を言うなら、国会議事堂の中で日本に関する会合も積極的に行い、アメリカ人の政策立案関係者を巻き込んでいくべきだと思うんです。
  それはもちろんアメリカ以外の国でもやるべきことですが、現在世界をリードしているアメリカにおいてそうした動きをすることは重要なことだと思います。
  しかしながら、こうして日本に帰ってみると、何だかそうした必要性は誰も感じていないようですし、「日本のプレゼンスが低い」と言ってみてもピンと来ないのだと分かります。

 運営者 しかし僕は、それが最も重要な他国に対する働きかけではないかと思いますが。

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