「ウチのブドウは鍛えてあるから」  
自然派ワインに首ったけ  山田恭路 氏



「ウチのブドウは鍛えてあるから」  [自然派ワインに首ったけ]

BMO株式会社
山田恭路 氏

山田  これもここで扱っているワインなんだけど、76歳のおじいさんが造っているワイナリーでね、その人はなんと60歳で独立して蔵元を起こしてるんだよ。

運営者 それはすごい奴だなあ。

山田  その人はそれまで、農協の組合長をやっててね、農協が買い上げるブドウは大量生産のまずいものをつくっているわけで、「このままだとおれたち全員ダメになるぞ」と警鐘を鳴らし続けていてね、ワイン農家に、「もっとうまいブドウをつくれ」とか、「こういうやり方をしたほうがいいんじゃないのか」とか言い続けてきたんだけど、組合員はやっぱり楽な方向に流れるから話を聞いてくれない。何度言っても聞かない。
 「これはもう頭にきた、わしがつくる」ということで始めたんだよ。

運営者 それもまた頑固な人だな。

「ウチのブドウは鍛えてあるから」山田  それはそれはすごい気迫なんだよね。
 97年だったんだけど、収穫前のブドウ畑に雨が降ってきたんだ。雨が降ると何がいけないかというと、雨が直接ブドウにかかると病虫が発生するということもあるけど、地面に吸い込まれた雨を木が吸い込んでブドウが水ぶくれになっちゃうんだよ。あっちの降雨量は東京の3分の1くらいだから。
 ちょうど雨が降ってきたタイミングで、ぼくはその村にいたんだよ。その村は11人ワイン農家がいるんだけど、みんな必死になって収穫を始めたわけ。ところがその村の中で、そのじいさんだけがワインを摘もうとしないんだよね。座ってるわけ。それでぼくのパートナーが、そのじいさんに「あんたも早くブドウを摘まなきゃいけないんじゃないのか」と聞いたら、「何でだ?」と聞き返すわけ。
 こっちも食い下がって、「ブドウが水膨れになっちゃうよ」というと、そのじいさんは「いいんだよウチのは。鍛えてるから」と答えるわけ。
 「鍛えてる」ってどういうことだと聞くと、逆に聞かれたんだよ。「なぜお前はそんなに急がせるんだ。2月から始めて、1年間こんなに苦労してやってきて、あと1週間すれば完熟するのに、今摘みとったら台無しじゃないか。なぜ我慢できないんだ」と言われちゃってね。こちらは煙に巻かれちゃって、諭されてしまったよ。

運営者 なんか悟りきったじいさんには勝てないねぇ。どういうことなの?

山田  「鍛えてある」というのはどういうことかというと、普段からもすごくちゃんとブドウの手入れをしているので、ブドウの木の根の生え方が、そのじいさんのワイン畑は他の畑のよりもかなり深くまで張っているわけ。
 他のワイン畑だと、地面に肥料をまいたりするから根っこが地上方向に向かって延びていたりするんだけど、そのじいさんのワイン畑は徹底的に厳しく育てているので、木の根が栄養を求めてすごく深く地中に入っているわけ。そうすると雨が降っても、その根のところまで染みていかないらしいんだよ。だから水ぶくれにならないと。
 しかしその当時は、彼が言っていることは全く訳が分からなかったね。だから「我慢が大事」と言われて引き下がるしかなかったという感じかな。

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自然派ワインに首ったけ 山田恭路 氏

自然派ワインに首ったけ 山田恭路 氏