近代化の過程は長くかかる



運営者 あのほら、パリのノートルダム寺院に行くとね、雨どいが怪獣になってるんじゃないですか。ガーゴイル(怪獣彫刻)って言うんですよ。ロマネスク建築とかゴシック建築では、怪獣が乗っかってるんです。建物の上とか、あるいは柱の装飾に使われていたりする。

 あれは何かというと、ゲルマンとかガリアとか、ローマ的じゃない部族の世界では、アニミズム的な信仰があって、世の中にはああいう怪物がいるわけなんです。ゲルマンでは深い森があって、街を出ると、そこはもう違う宇宙なわけです。そこにはいろんな獣や、魑魅魍魎がいるわけです。

ピサーノピサーノ飯坂  魑魅魍魎ですか、いい言葉だねぇ。

運営者 ははは で、キリスト教がその世界に入っていくことによって、キリスト教的な世界秩序下に、そうした魑魅魍魎を押さえ込んでしまうわけです。だからもともとの魑魅魍魎はいるんだけれど、それが教会の雨どいになったり、柱を支えることになる。そうした建築様式になるんですね。
 それまでのゲルマンやガリアの人たちの持っていた精神的なものを、キリスト教が押さえてしまうということが、建築の中に封じ込められて伝えられているわけです。それを人々が見ることによって、キリスト教の神の栄光の方が、土着のアニミズム的な信仰よりも上なのだということを、建築によって示しているわけです。

 なにが言いたいかというとですね、問題を発見して、全員に見える形にして、繰り返して説得しないと、解決できるものも解決できないということですよ。

 中世のドイツで、シュバルツバルトの森の中に住んでいる一家の場合、家族の命を奪われたり、傷つけたりされた場合は、その復讐をするというのが当主にとっての義務だったんだそうです。ドイツでは裁判権の帰趨が長い間の問題で、各領主が裁判権を持っているという状態が続いたわけで、国家が独占的に裁判権を持つという状態に至るまでに随分長くかかったということからもわかるように、近代化の過程は長くかかるんです。人の意識の問題と、制度問題と絡み合ってますから。

 ワーグナーの楽劇「ワルキューレ」の第一幕には、そういうゲルマンの価値観が色濃く反映されています。「ヘンゼルとグレーテル」だって、そういう話ですよ。そういうのを「スターウォーズ」も引きずっている。ヒーローものをやるには便利な価値観ですよね。 


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